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広報誌「ほうてらす」インタビュー

広報誌「ほうてらす」Vol.11 冬号  インタビュー

裁判員制度の評価、今は70点で十分。そこからの進化が大切なのです。

聞き手 法テラス理事・草野満代

最高裁判所長官 竹崎 博允さんのインタビュー風景
裁判員の冷静な会見と出席率の高さに驚き
草野
竹崎長官が最高裁判所事務総長時代から準備作業に関与されてきた裁判員制度が始まって半年余が経過しました。今、どのように評価されていますか。
竹崎
まだスタートしたばかりで評価できる段階ではありませんが、私としては、予想以上にいいスタートが切れたと思っています。これだけの制度が円滑にスタートするのは本当に大変なことなんです。国民の意識の高さに感謝しています。
草野
裁判員になられた方が終了後、率直な感想を自分の言葉で話されている姿には驚きました。
竹崎
記者会見での冷静な対応には正直、私も感激しました。何よりも驚いたのは、呼出しに対する出席率の高さです。予想よりはるかに高かった。
草野
当初はどのくらいだと?
竹崎
今は社会的な環境が厳しい状況ですから、かなり多めに見込んでおく必要があると思っていました。はじめから無理はせず、書面調査や面接で差し障りのある人にはできるだけ柔軟に対応するという方針でした。ところが始まってみたら、平均で9割ほど、事件によっては10割の出席率です。これは諸外国では考えられません。
ミリ単位の物差しをセンチの物差しに替える
草野
長官は以前、裁判員制度について「裁判を準備する側がミリメートルの物差しをセンチの物差しに持ち替えないと一般の人はついていけない」とおっしゃっていました。
竹崎
ミリメートルと言ったのは、細部にこだわるという意味です。細部にこだわるとどうしても書面が必要になります。裁判員裁判では、書面に頼らず、ある程度口頭のやり取りで判断できなければならない。これがセンチの物差しです。そういう方向に向かっているとは思いますが、まだまだ。裁判官も検察官も弁護士ももっと勉強して、センチの物差しで核心に近づいていく技術を身に付けていく必要があります。
草野
裁判員制度について、他にこれからの課題だと思われることはありますか。
竹崎
いくつもありますよ。私は、裁判員制度を始めるにあたって、はじめから100点を求めてはいけないと言ってきました。めざすのは70点。すると、後回しにしていい30点が何かを考えるようになり、業務にプライオリティをつけるようになる。「全部が大事」ではスタートできません。
草野
日本人はまじめだからどうしてもはじめから100点を取ろうとするんでしょうね。
竹崎
スタート時が100点だと、そこから退化していってしまうかもしれない。足りない部分があって、改善していくからいいものになるんです。
草野
運用面での課題は何ですか。
竹崎
一番重要な課題は、国民が制度に満足しているかどうかを把握することですね。制度が定着するかどうかは、3つの要素にかかってきます。一つ目は裁判結果が合理的だったと国民が納得できるか。二つ目に裁判員が満足するか。裁判が十分に理解でき、自分の意見を言え、それが判決に反映されているかです。さらに三つ目として、被告人の正当な利益が適切に保護されているか否か。この3点をしっかり検証することが重要です。私は裁判員制度を単なる刑事手続の変更ではなく、大きな改革だと思っています。国民は犯罪、裁判、あるいは刑罰について関心を持ち続けるようになり、われわれ法律家は刑法について考え直す。裁判官とはどういう存在なのかというところまで問われてくるんです。
司法制度改革は 永続的な仕事の入り口
草野
長官ご自身が裁判官になろうと思われたきっかけは何ですか。
竹崎
きっかけというようなドラマチックなものは何もないんですよ。大学でもあまり進路を絞りたくなかったというのが本音です。
草野
でも、司法試験に合格したら進路は弁護士か検察官か裁判官に絞られますよね。
竹崎
受かってからはね。弁護士や検事ではなく裁判官を志望したのも、3つの中では一番扱う領域、勉強できる領域が広いだろうと思ったからです。
草野
今までのお仕事で印象に残っていることはありますか。
竹崎
やはり司法制度改革に関わったことが、一番大きくてきつかったですね。
草野
裁判員制度のスタートは長官の中でも大きなことですか。
竹崎
裁判員制度だけではありませんが、今後の作業も含めて大きいことだと感じています。永続的な仕事の入り口に立ったという感じですね。
「話合いより法」の社会で重要性を増す法テラス
草野
法テラスも司法制度改革の一環として3年前に設立されましたが、裁判官というお立場からどのようにご覧になっていますか。
竹崎
私も法テラスの設立はずいぶん支援しましたが、これは裁判員制度と並ぶ、きわめて重要な制度だと思っています。司法というのはすべて各論ですから、個別の紛争を具体的に解決してはじめて意味があるんです。理論的にはどんなにすばらしい制度でも、お金がないために利用できないのでは意味がない。せっかくある制度を誰もが利用できるように保障する。それが法テラスなんです。
草野
コールセンターにかかってくる相談数は、年々大きく増加しています。
竹崎
それにはいろいろな要素があると思いますね。例えば政治的あるいは経済的に、安定していたものが不安定なると、いままで表面化しなかった問題が顕在化してくる。グローバリゼーションの影響も大きいと思います。もともと日本は同質性の高い社会ですから、まずは話合いでの解決を試み、司法は最後の手段でした。アメリカは異質な文化が混ざり合っていますから、万人に共通する解決法として、はじめに法律があります。グローバリゼーションによって日本でも法律に頼る部分が大きくなってきていると思います。
草野
法テラスは多岐にわたる複雑な仕事を、設立から3年という短期間で、しかも全国規模で展開してきました。
竹崎
国選弁護や法律扶助など、いろいろな組織がバラバラに行っていたことをひとつの組織にまとめ、短期間でこれだけ整えたというのは、驚異的なことだと感じています。予算面など困難はあるでしょうが、評価を焦らず、これも長い目で判断しないといけないと思います。
草野
本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

最高裁判所長官
竹崎 博允さん

1944年、岡山県生まれ。
東京大学卒業後、69年判事補に任官し、79年、東京地裁判事に。その後、最高裁経理局長、事務総長、名古屋高裁長官、東京高裁長官を歴任。最高裁事務総長時代に裁判員制度の設計に関わる。2008年11月、最高裁長官に就任。
ゲスト:最高裁判所長官 竹崎 博允さん


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