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法テラス座談会

今求められるセーフティネットとは-司法と福祉の連携を中心に-

地域や親戚とのつながりが薄れ 孤立する現代の人々

香山リカさん

精神科医 香山 リカさん
1960年、北海道生まれ。精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授。専門は精神病理学。現代人の心の問題のほか、政治や社会など幅広い分野の批評でも活躍。

草野
香山さんは臨床での相談や治療で心に問題を抱えた人たちと日々向き合っていますが、振り返って、今、どんな社会だと思いますか。
香山
うつ病が増加していますね。先日発表された厚生労働省の患者調査でも、ここ10年で2.4倍、100万人以上にうつ病という診断名がついてしまいました。ちょうど新しい抗うつ薬が発売されたと同時に、患者さんも増えているということもあり、単純にそれだけの患者さんが増えているとは言い切れないんですが、増加していることは確かです。ご存知のように自殺者も1998年に3万人の大台に乗って以来、まったく減りません。2009年は過去最悪ではないかといわれています。そのようなデータよりも臨床の現場にいて思うのは、うつ病そのものよりもその背景にある現実問題に早く手を打たなければ大変、という人がとても多いんです。精神科といえばいろいろな悩みを持つ人が来て、ウディ・アレンの映画のように、寝椅子に座って「あなたの子ども時代の話をしてください」と、心の奥深くに立ち入るみたいなイメージがあると思うんです。実際そういう部分もあるんですが、最近はそんなことはとても言っていられない、現実問題が原因にあってそれと直結して単純に反応性のうつ病になっているだけという人も多い。夫のDV、多重債務、介護問題から立ち行かなくなっている人、今日病院に来た方は、隣室との騒音トラブルでうつになっているという感じでした。あるいは、ちょっと知的障がいのある方で、不当解雇に近い状態で仕事を失ってしまった人。もちろん昔から、騒音トラブルなどはあったと思います。わからないのは、なぜ私がよろず相談のようなことをしているのか。ほとんどの仕事が「あなたは法テラス」「あなたは女性センター」と振り分けて終わりです。「あなたの生まれた意味は」といったような、深い話なんてとてもできない。現実は電話番号を渡す案内所。なんでこんなことになったかなと思ったとき、もちろんそういった問題が増えていることもありますが、社会のセーフティネットというか、クッション役みたいな人がいなくなり、どこに相談すればいいのかわからないのではないかと考えたんです。日常の生活レベルで相談できるような知り合いや先輩、町内会の長老が、誰もいないんです。だから法的サービスを使うか精神科に来る。それでも精神科に来てくれれば少しは相談や、「ここに行けば」といった振り分けができるからいいんです。たぶん精神科にも来られず、完全に孤立無援状態で途方に暮れている人もたくさんいるんだろうと思います。そういう人たちのための社会的サービスをどうやって充実させるかも大事ですが、そんなに大それたものではなく、もっと日常レベルで、親戚や町内会のおじさんというレベルでのクッション的な、受けとめたり相談できたりするような人がいればいいんです。あとはネットで検索するぐらいしかないでしょう。今はネットが辛うじてそういう機能を果たしていますが、今日病院に来た女性も去年体を壊して会社を辞めたら、恐ろしいくらい孤独に陥ってしまった。その人はなんとか生活保護は受給できたんですが、社会との日常の繋がりが携帯電話だけなんです。携帯電話でゲームをやりながら、チャットで辛うじて話はする。もちろんその相手が本当のことを言っているのかはわからないから、それ以上日常の友だちになるわけでもない。それ以外は何もしていない。そんな人が病院に来て、私もそんなに知恵やネットワークがあるわけではありませんから、いったいこの人はどこに相談すればいいんだろうと、途方に暮れたまま帰すこともあるんです。

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