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法テラス座談会
制度の複雑化と担い手不足で 拡大する貧困に対応できない
社会活動家 湯浅誠さん
1969年、東京都生まれ。 NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長、反貧困ネットワーク事務局長などを兼任。
- 草野
- 誰も頼れる人がいない、家族も、もちろん友だちもいない。その実態は湯浅さんがここ数年で社会に提起し、明らかにさせてきたことです。世間にはそう言われても「えっ、そんなことがあるの?」と思っている人がかなりまだいると思います。
- 湯浅
- そこを理解してもらうのは難しいと思います。例えば生活保護の母子加算が問題になり、一度廃止になって政権交代で復活しました。廃止されたのは、使っているお金で計ると、生活保護を受けてない母子の低所得者世帯よりも、生活保護を受けている母子の方が1か月に使う金額が多かったからなんです。政権交代して厚労省が調べたデータ(2009年、生活保護母子世帯調査等の暫定集計結果)がこの間出たんですが、困ったとき誰に相談しますかという質問に対し、生活保護を受けてない母子世帯の方は「家族」と答えた人と「友人・知人」と答えた人が合わせて99%くらい。ところが生活保護を受けている母子世帯の方は、親や友人と答えた人は少なく、一番が民間の相談機関だったんです。それが50%くらい。単にお金だけでは計れない問題がある。シングルマザーをとってみても、近くに頼れる親がいれば子供を預けていろいろなことができますが、頼れる人がいなければずっと子供とカプセル親子状態でいなければならない。仕事にもなかなか出られません。多くの人にとっては当たり前に親がいたり兄弟がいたり親戚がいたりするのでわからないんです。ネットカフェ難民とかホームレスとか、派遣切りされてホームレス状態になった若者がテレビで出たときに、学生たちの反応を聞いてみると、なんで親や友人に頼らないのか、と言うんです。それは、頼る人がいないからそうなっているんですが、その状況が想像できない。自分には当たり前にいるから。
山田さん、香山さんのおっしゃったことに付け加えると、一方で雇用に頼り切ってきた社会で雇用が壊れ、家族にかなり頼ってきた社会で家族が壊れた。だから底が抜けたような状態で、私の現場でいえば、貧困が広がっています。他方で、雇用が公務員、公共のサービスでも壊れてしまっているんです。例えば今、地方公務員の3分の1が非正規雇用。ハローワークで仕事を紹介している人も1年契約の非正規。いい仕事があったら紹介する前に自分が就いてしまうという笑い話があるくらい不安定雇用なんです。市役所や区役所の現場で働いている人たちもどんどん非正規化が進んでいて、国も今、出先機関が廃止になって手足がなくなってきた。これによって制度がどんどん複雑になっていくんです。例えば、若年失業者あるいは低所得者に、生活保護のような制度でまとまったお金をポンと出すということは公共サービス上もあり得ないし、予算的にもあり得ません。すると細かい制度を山のように作るんです。細かく要件を分けてどんどん厳格化し、制度がこま切れになって、それを担う何とか相談員、何とか支援員、何とかカウンセラーも全員非正規。一方で生活が苦しくて困っている人が増えていると同時に、同じことの別の表れとして公共サービスが衰えて、制度がこま切れになって担い手も非正規化していくので、困っている人たちがサービスにアクセスすることが難しくなり、だんだん離れていくんです。私はこの間、政府の雇用対策で、第2のセーフティネットの拡充などを手がけてきましたが、雇用保険と生活保護の間のセーフティネットは、実は前政権からあるんです。緊急人材育成基金、就職安定支援貸付、つなぎ特例融資、住宅手当総合支援資金貸付、就職困難活動者支援、長期失業者支援。これらの要件すべてを理解しているのは厚労省でも2人か3人しかいないでしょう。それを使いこなせといっても不可能です。香山さんのおっしゃったようなことをわれわれもやっているんですが、「必要としている人と制度を繋ぐ人」という領域が実はどんどん増えているんです。しかし、それを本来やっていた公共サービスの人がどんどんいなくなり、誰がやるのかが、大きな問題になってきているんです。
- 草野
- 公共サービスそのものの担い手も、非常にあいまいになっているんですね。
- 湯浅
- 非常に不安定です。研修もないし本人たちもよく知らない。制度は探せばいろいろあるけど、それを誰が使いこなすのかといわれると、困っている人たちはそれだけのエネルギーはないし、聞ける人もいないし、情報を整理できないのに、どうやってそれを使うのか。単に生活の苦しい人が増えただけでなく、サービスを提供する側の変化も大きいんだなと最近よくわかってきました。
- 草野
- 日本は雇用と家庭が崩壊したとおっしゃられていましたが、今の社会保障は雇用も家庭も崩壊していないことを前提で作られたものですよね。だから、そもそも前提は変えないままで対症療法的にいろいろな制度を作ることによって、どんどん複雑化し、責任の所在も曖昧で、アクセスしづらいものになっています。
- 湯浅
- そうですね。例えば雇用保険はカバー率23%ですから、77%は漏れてしまっている。では雇用保険のカバー率を一気に70%にできるかというと、そんなお金はありません。今度、雇用保険を改正しますが、それで雇用保険の受給資格を持つ人が100万人増えるけど、どれくらいカバー率が上がるのかはよくわかりません。多少増やしたところで膨大にこぼれた人たちにはかなりこま切れの対策になります。
- 草野
- 先日NHKで『助けてと言えない〜今30代に何が』という番組を見て、助けてほしいと言うことが負け組であると認めることだという発言があって、とてもショックを受けたんです。そういう自己責任であるということによって心が縛られている。若者特有の状況も複雑に入り組んでいて――。
- 谷口
- 若者特有ではないんじゃないですかね。
- 湯浅
- とくに男性は強い。中高年を含めて。弱音を吐けないという「弱み」がはっきりあります。
- 草野
- それは最近の話ではないということですか。
- 湯浅
- 私の感じでは中高年の方がもっと頑固。
- 山田
- メンタリティは変わらないんだけれども、そもそも20年前までは中高年も若い人も助けてもらう必要がある人はほとんどいなかった。
- 香山
- 訪問医療をやっている医者が言っていますが、月島や新宿の大久保といった都会のビルの狭間には小さい家があって、高齢者の方々が孤立しているんです。子供たちもみんな独立して頼れないと我慢して、噛み締めるような孤独のうちに暮らしている。その人たちこそ、頼れない、若者には迷惑かけたくないと言っているんです。
- 山田
- 上の世代が下の世代を援助するというシステムがデフォルトとしてあるので、それができないと自己否定に繋がるんです。つまり自分が助けてと言わないことが子供に対する愛情になるんです。今までは、親自身の経済状況が安定していたから大丈夫でしたけど、今は安定している人もいれば、していない人もいる。そこで問題が起きてきているんです。逆にいえば、子供に迷惑をかけないことが子供への愛情だと信じて、貧しいまま死ぬことが幸せなんですよ。だから子供以外の誰かに助けてと言えればいいんですけど。