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司法と福祉で連携を深め 障がい者や高齢者をトラブルから守る
谷口 太規
法テラス埼玉法律事務所(さいたま市)スタッフ弁護士。
われわれはスタッフ弁護士という立場なのですが、スタッフ弁護士という言葉自体が法律に明記されているわけではないんです。弁護士会や一般の弁護士からは民業圧迫ではないか、という意見もあったそうですが、そういう声の中で3年半前、スタッフ弁護士一期生はわずか22人でスタートしました。人気がなかったんです。弁護士は自主独立であるべきと言われていましたし、給料も低いですし。はじめは法テラスっておもしろそうだと思って入ったのですが、私たちも最初何をしていいのかわかりませんでした。利益を追求せず、公共のために役立つことをやりなさいと言われ、模索してきました。スタッフ弁護士がやる事件は都市部においては主に2つに限られています。一つは法律扶助事件、もう一つは国選弁護事件。つまり弁護士費用を払えない人のための活動です。これに対して、司法過疎地域だとそもそも弁護士がいないので、求められたニーズのある仕事は全部やります。要は利益のためにやるのではなく困っている人のための弁護士になりなさいという制度がスタッフ弁護士なんです。そして3年半、私たちがいろいろな実践を重ねるなかで、一つの代表的な仕事となってきたのが、社会保障の一環にもなると思いますが、福祉関係機関と連携しながらセーフティネットを再構築するコーディネーターとしての役割だったんです。その一番先進的な活動をしているのが可児の太田弁護士です。
太田 晃弘
法テラス可児法律事務所(岐阜県可児市)スタッフ弁護士。
次に、この可児で何が起こっているのか、一つの事件をピックアップしてお話しします。この事件に関わったきっかけは、とある町の地域包括支援センター、介護保険法上の高齢者のサポートをする機関なんですが、そこの保健師さんからの1本の電話でした。その電話は、デイサービスを受けている一家がどうも訴えられているらしいというものでした。山奥で暮らす家族4人、全員障がい者で、おばあさんと、うつ病になってしまってほとんど動けず働けなくなってしまったお母さんと、知的障がいをお持ちのお子さん2人。不必要な割賦訪問販売を多数売りつけられているらしいという通報でした。家は事務所から山間の道を車で60分くらい走ったところにありました。不必要なリフォームを割賦訪問販売でなされてしまい、外見だけきれいに見えるんですが、中はボロボロで、床下にはシロアリ駆除の換気扇が不必要にたくさんつけられていました。この案件の最初の問題は、事実関係の把握でした。家族の皆さんがうつ病だったり高齢者だったりして判断能力が若干心許なく、そもそも被害意識が薄い状態でした。裁判所からも特別送達の通知が来ていましたけど、まったく意に介していません。まず地域包括の方々にも依頼し、事実関係を正確に把握するところから始めました。どこからいくら請求されているのか、どこから借りているのか、どこと契約したのかということを調べ上げました。30分5250円の弁護士相談費用どころか移動するお金すら全然ない状態でした。このような案件を自分で探してきて取り組めるのは法テラスゆえの強みです。ここから先は法的な問題なので、弁護士の腕の見せ所です。約800万円の割賦代金が請求されていましたが、消費者契約法などを駆使してなんとか債務を不存在にしたり、取り返せるお金は取り返したりしてなんとか破産は回避しました。家は相続している持ち家だったので、競売にかけられるところだったんですが、なんとかそれも防ぎ、引き続き住めることになりました。もちろん法的にはここで終わりですが、スタッフ弁護士の仕事は終わりません。その後も関係者みんなで見守り、ケース管理も定期的に続いている状態です。ケースワーカーや地域の人が家に入るのは嫌がるのですが、「ちょっとどうなっていますか」と弁護士である私が入っていく分には「どうぞどうぞ」と許してくれる。うまく役割分担しながら見守りつつ、どうやって今後困ったことにならないようにするか模索しています。
この案件は特別な地域のレアケースではなく、同じような案件がたくさんあります。例えば、独居高齢者の方が新興宗教のようなことにはまったり、身寄りのない末期がんの患者の方が借金で困っている、反物とか掛け軸とか屏風とか、高齢者に販売し、その高齢者が要らぬものばかり買ってしまうということで家族とも折り合いが悪くなって……。そんな案件もありました。司法にアクセスできない人たちの案件はたくさんあります。障がいを持っている方の案件だけでも常時数十件抱えています。関係機関と連携して事案を発見し次第弁護士にアクセスしてもらい、解決する場面でも関係者みんなで集まってお互いに得意分野を活かし合いながらトータルに生活課題を克服しています。連携先として福祉課や地域包括支援センター、消費者センターや病院などと連携がとれるようになってきて、こういう案件も増える一方です。精神科の病院や精神障がい者向けの地域支援センターにも出てきてもらっています。
人口の5%くらいいる何らかの障がいを持っている方や、二十数%いる高齢者の方は弁護士にアクセスできないところにおり、障がいだといわれなくてもボーダーにあたる方々がたくさんいます。そういう方々はさらに私たちから見えにくくなっていると思います。弁護士の使い方がわからない、弁護士を使おうという発想がそもそもない、動けない、被害意識がない、意思疎通が困難……。私たちも反省して、いかに彼らのような人たちにアクセスしてもらうかということを考えなければいけないと思います。関係機関の現場の職員たちは、こうした人たちの悩みをサポートしてくれて、橋渡しの役割をしてくれるようになってきました。それでも本当は十分ではなく、優秀な福祉現場の職員ほど、自分に見えていないものがいっぱいあることを自覚しています。私たちも一緒になって見えていないものがいっぱいあることを自覚しながら活動しなければいけないと思います。
今、一番悩んでいるのは連携格差の問題です。今連携ができている機関は一部の地方公共団体の、ほんの一部の方々です。先ほど湯浅さんの話にもあった通り、連携先の福祉機関の方々もやっぱり非正規の方がたくさんいて、正直、能力差ややる気の問題もあって、優秀な方がいるところは地域からいろいろな事案を持ってきてくれるんですが、まったく音沙汰ないところでは何が起こっているのかわからない状態です。ここで、岐阜県内を例に、A市とB市という2つの市を比べてみたいと思います。B市は私の事務所からだと高速道路を使っても60分くらいかかる遠いところで、人口もA市のほうが2倍くらいいます。ですが関係機関との連携によって事件が判明した連携案件を調べてみると、A市が連携案件はほぼゼロなのに対し、B市は全20件のうち連携案件が14件あります。それ以外の3件も裁判所から当事者へのアドバイスによりきた案件なので、ほとんどがなんらかの公的ネットワークからの紹介です。B市には問題意識を明確に持ったケースワーカーさんがいて、その人が市役所内で横断的に問題を拾い集めてきてはどんどん弁護士につなぐということをやっているからなんです。このようにアウトリーチができる、問題家庭に手を伸ばせるようなケースワーカーが必要ですし、それを側面から育成するために私たちからもっと働きかけをしていかなければいけないと思います。
田舎には地域コミュニティや地域の目があって、このように地域の問題が網の目に引っかかりやすいほうだと思いますが、大都市の、本当にインナーシティのようになってしまっている地域でひっそり暮らしている方々が抱えている問題も、私たちはもっとよく見ないといけないと思います。それには人員不足の問題もあります。スタッフ弁護士は、各地の実情に応じていろいろなことを行っており、当然全員がこの連携を行っているわけではありません。いかにこの取り組みを広げていくかが課題だと思っています。それから、最近のデータで出てきた話では新規受刑者の22%くらいが知的障がいを持っていると言われています。本当は彼らを刑務所に送り込むのではなく、適切な福祉機関などで知的障がいの方々をうまくサポートしていかなければならないのに、弁護士すら障がいを見抜けずにすり抜けて、結局刑務所に送ってしまうところもあると思います。弁護体制にしても裁判体制にしてもまだ改善の余地はあると思います。
「障がいの隙間」問題もあります。障がい者の認定は無理だけれど、でも能力が不十分、要はボーダーなのではという方々はどうすればいいのか、適切な給付を受けられないけれどどうすればいいのか、という問題があります。また、この人は障がいがあるかなと思っても、本人に対してあなたは障がい者ですから認定を受けましょうとは言えません。こういうとき、福祉機関の方々と相談しながら話を進めるんですけど、どうやって適切な社会資源につなげられるかも最近の悩みです。
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