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法テラス座談会

今求められるセーフティネットとは-司法と福祉の連携を中心に-

さまざまな分野の専門家をつなぐ コーディネート役の確立が急務

草野
法テラスの業務の一つの大きな柱に情報提供があるんですが、コールセンターでは去年が28万件、今年はもう40万件になるくらいの問い合わせがあります。法テラスが知られてきたこともありますが、それだけ情報を求めている人が増えているんですね。その中間というところとまさにつながるところがあると思います。
谷口
谷口太規さん太田さんが出された山奥の障がい者一家の例は特殊な人に対してどうするか、ということでしたけども、私が埼玉に勤務していて見た、人口も何百万人もいる都会で、どういう流れをたどって、社会から孤立していくかというような例を一つ挙げてみます。普通に大学を出て、二十何歳かで事業を起こそうと思ってお金を借りたが、すぐ返せなくなり、離婚して、結局借金を返せないから逃げることにした。住民票を移すと借金の催促が来るので、住民票はおいたまま。今、日本社会では住民票が身分保証になっているので、ないと仕事とか職場からも排除される。そうするとまさに非正規労働で、深夜の自動車工場のベルトコンベアなどで働かざるを得なくなる。そうするとメンタル面でも体調を崩し、新しい家族も持てない。そうやって15年くらい逃げて、もう逃げることに疲れたからということで戻ってきたけれど督促が来て、もう逃げる場所がないから死ぬしかないと思ってしまう。これは、大きな書店があって、インターネットのアクセスポイントがあって、弁護士もたくさんいるという場所で、法的な問題で死まで考えているんです。ところがこのケースは、弁護士の所に来たら、10分で実は解決する問題なんです。時効になっていますから、内容証明を打てば、10年前から死を考える必要はなかった。今、湯浅さんが取り組まれている生活保護を受けている人の低額宿泊所でも、法律相談に行くと5人相談をうければ4人はそういう人です。時効なので10分で解決する。でもみんな住民票がなくて借金がどうにもならないと思って、すべり台社会に乗った瞬間にもう助けてくれる人がいないと思ってしまうんです。

今までリーガルアクセス、司法にどうやってアクセスするかの問題と考えられてきましたが、太田さんは違ってきているのではないかと言っています。相談者がどうやって届くかではなくて、弁護士がどうやって手を伸ばすか、アウトリーチの問題なんだと。最近、私はむしろ役割分担の問題なんじゃないかと思っています。地域社会で誰がどの部分を受け持っていくのか。身体のセーフティネットには病院があります。でも、法的な問題でも死ぬこともあるわけで、何か困ったら弁護士に相談するとか、法テラスなどの相談機関に相談するというようなことが必要です。香山さんが「クッションがなくなった」とおっしゃっていましたが、クッションは復活しないと思うんです。もちろん復活すれば一番いいと思いますが。そうしたときに、制度と人とをつなぐ人が必要だと湯浅さんがおっしゃったように、山田さんも本のなかで個人の間に公共領域を作らなければならないと書かれていますが、そうした人と人とをつなぎ直す役割を法テラスや相談機関がもたなくてはならないのではないかと思っています。

湯浅
湯浅誠さんそういうことを制度化できないかというのが、今取り組み始めている課題なんです。その島と島をつなぐ船とか橋の役割としては、寄り添い型支援、伴走型支援というんですが、たとえば高齢者中心に地域包括支援センターがある。障がい者もそういう地域支援センターがある。今、必要としているのはそういう人たちだけじゃない。それこそ派遣村にくるような若年、高齢、失業者。制度が複雑になっているから、普通の人にすべてが行き渡るのは非常に難しい。そうしたなかでつなぐ部分をやるような人たちというのが、さっきも言ったように非常にこま切れ労働化している。たとえばハローワークにはいろいろな支援する人がいて、生活保護のある福祉事務所にもいろいろな相談員がいますが、結局、肩書きはあっても、ふたを開けてみればハローワークのOBの63歳のおじさんが、63歳のときにはここをやっていて、64歳ではここをやっていて、65歳のときにはここにいた、という話なんです。そうではなく、それがある程度職業として確立するような、きちんとした見通しが立つような、介護保険におけるケアマネージャーをもうちょっと理想形に近づけたような、そうした制度を作っていけないかと考えています。その周辺にいろいろな制度を配置できたらいいんじゃないかと思っていますね。イギリスのいわゆるニート対策といわれた、16歳から18歳で高校をドロップアウトした人をマンツーマンでサポートするお兄さんお姉さんというのはそのイメージなんです。それをある程度職業的にきちんと作っていく必要があるんじゃないかということを、いろいろな反省の上に考えています。
草野
みなさんの話を聞いていると、法制度をあらたに作り変えるというよりは、いかにそこに人を置くかということですね。
香山
人ですよね。先ほどの岐阜のケースワーカーのように、それこそ神様から選ばれたようなスーパースターというのはそれぞれいると思うんです。湯浅さんもそうかもしれないけど。でも個人名で認識されるくらい少ない。私も「この地域には誰々、地域包括支援センターには鈴木さんという人がいる」と個人名で覚えてしまう人はいるにはいるんです。でも、その人に頼り切って、何かあればその人に連絡してしまうと、その人の負担も大きくなってしまう。金銭面では十分に評価されないし、休みもとれてないから結局燃え尽き状態になり、数年で本人が倒れてしまったり、限界を超えてがんばったりしている。そういう人たちが職業として確立されているというのは、もちろん安定した雇用というのもそうだけれど、きちんとした休みが取れることも含めて考えてほしいですね。
湯浅
貧困の問題もそうですけど、雇用と福祉と住居と医療と年金と、全部からむんです。だから、医療の専門家がいても、その人がその部分だけを切り取る、労働の専門家がその部分だけを切り取っても、その人が抱えている困難は絶対見えてこない。伴走型というのは、さまざまな専門家にさらにつないでいくような役割で、とくに若年失業者は、労働・福祉・住居の3点が確実にからんでいるので、ここをどうつないでいくかが重要なんです。

太田
社会福祉士とか若干近いんですけどね。
湯浅
社会福祉士もそうなんですが、仕事として今、あまり認知されてないんですよね。
山田
社会福祉士は単に資格で、持っているだけで生活できるわけではないんですよね。
太田
社会でもそういうコーディネーター的な人が独立でいてくれるとありがたいですよね。今、現実でやっているのは、スタッフ弁護士がその役割を担うか、またはその案件により関係機関の誰がキーパーソンになるかをそのつど決めて、といったやり方なので、そういう方がいるとすれば、現場としては非常にやりやすい。
湯浅
ただ非常に難しいのは、この人がある程度ちゃんとした調整権限をもてないと活きてこないわけです。ということは、いろいろ縦割りで仕切られている人たちが、きちんとこの人に協力してくれるというのが重要ですね。
山田
内部のそういう問題としては、いろいろな人に支援してもらわなければいけないので、責任の問題もありますが、入り口をどうするかということも一つのテーマだと思いますね。例えば男女共同参画審議会では、DVだったら役所の女性への暴力相談窓口にまず行きなさい、ということになって、随分改善されたと聞きます。そこから始まって、いろいろなところから支援が回ってくる。つまり、DVに関してはワンストップができたわけです。いろいろな窓口があって、どこから入っていっても統一されるのがいいのか、困った人はとにかく「ここに来なさい」という窓口を役所に設けるかというのは考えなければいけないところだと思います。
谷口
その窓口は少しお節介でなければいけないところがあって、電話番号を渡すところまでやってあげるのか、それともこういう機関があるから調べて行ってくださいと言うのかだけで、そのあと次の機関に行くかどうかが全然違うんです。さらに予約をとってあげるとか、受け入れ先にも「こういう人がいるから受け入れてね」と言うとか。“アクティブアシスタンス”という言葉があるのですが、要は一歩先の援助、少しお節介な援助というくらいのことまで備えた窓口でないと、多分その先まで繋がらないと思います。
草野
かつての地域社会だったら、少しお節介な伴走者がいて、その人たちがその法的サービスのほうに「ほら行きなさいよ」と言ったり、あるいは連れて行ってくれたりするのですが、それがもう期待できないということを認めたうえで、ケアする側、こちらのサービスの中にやっぱりそういう存在が絶対に必要なんだと思います。
湯浅
完璧にそういう状況だろうと思いますね。これが喜ばしいことなのか、残念なことなのかはさておき、そうでないと立ち行かなくなってきています。

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