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法テラス座談会

今求められるセーフティネットとは-司法と福祉の連携を中心に-

法的トラブル解決の要としての法テラス 行政サービス支援の継続的な位置づけを

草野
そういう中で、法テラスが一体どういう役割、仕事ができるんだろうということを常に考えているんですが、どうなってほしいですか。またどんなことを期待されますか。
香山
香山リカさん
医療の問題と思ってもその背景に法律の問題があることが非常に多いのですが、特に医療に駆け込んでくる人の多くは、弁護士さんに相談するのは敷居が高い、畏れ多い、怒られるんじゃないか、お金がないなど言っているんです。そういう人たちに、「弁護士事務所に行きなさい」というよりは、一段敷居が低い法テラスは紹介しやすい。法テラスはさまざまな相談機関や法制度の情報を持ち、法的トラブルで迷った人に解決の道案内をしてくれる。十分に機能を果たしていると思います。さらに、法テラスが法的トラブル解決の要のような役割を担えるようになればいい。私は本当にたまたま知ることができたので紹介できますけど、まだまだ知られていない。企業の人たちや、もしかしたら窓口になるかもしれない占い師さんのような人たちにもっとインフォメーションしていく必要もあると思う。ただ、もしかしたらお門違いの相談も回している可能性があるかもしれない。「それはウチではないですね」と言われた場合に、次にどうするのか。それが利用者からするとたらいまわし感になってしまっているかもしれません。今話しているのは本当に困っている人の話ですが、私のところには、カードを作りすぎてしまった奥様やホストクラブにカードを使いすぎた風俗嬢など、それこそ「自己責任ではないの?」と言いたくなる人もかなり来ます。それでもにっちもさっちも行かなくなっていることは確かなので法テラスを紹介していますが、いいのかな、とも思っています。
佐々木
(法テラス情報提供課) それはいいんです。情報提供だけで解決するのではなくて、道案内役ですから。特に民事法律扶助が法テラス内部の事業としてあるので、経済的に困っている方には扶助を、そうじゃない方でも情報提供は間口が広い、というのが法テラスの利点です。
香山
「こんな人は回さないでくれ」という案件はないんですか?
佐々木
案件というよりは、情報提供の窓口自体ですべて解決できると誤解されている人です。コールセンターに電話したら弁護士が出て、すぐに法律相談に乗ってくれると誤解をされている方には、期待外れ感を持たれてしまいますね。それでもそこから先につなぐという役割は果たしています。法律問題かどうかという判断自体、一般の方には難しいでしょう。困ったことがあれば、聞いていただく、法律問題でなければ、それ専用の窓口とかもご案内するというスタンスです。
草野
山田さん、法テラスに担ってほしい仕事はありますか。
山田
弁護士に依頼できる人、たとえば何億円の遺産相続や高収入者の離婚問題なら法テラスは必要ない。仕事はあるけれど正社員ではないというレベルの人が利用しやすい制度を考えてほしい。つまり働けるか働けないかに分けてきめるのではなく、一部は自分で出すけれども一部は国から補助が出るような弁護士報酬のあり方を考えていかないとなかなか広がらないでしょうね。
谷口
法律扶助という制度は、基本的に立替えです。一般の弁護士の場合、借金がどうにもならないから破産をしたいというとき、「30万円持ってきてください」というのが基本的な対応です。明日の1万円が払えないのに30万円持って来いと。だからたどり着かない。その人に適切な法的な支援をすれば、その人の生活が立ち直って、載っていた重石が除去されれば、スムーズに歩いていける。そうしたら徐々に返してくださいというのが法律扶助の発想なんです。
山田
山田昌弘さん
その中間があればすごく利用しやすい。離婚のときの裁判の費用が30万円とすると、それほど払えないんだけれども、非常に困難をきたしているから10万円ぐらいなら払ってもいい、という人たちに対する支援はどうでしょう。無一文になればとっくに離婚していそうですし。中間ぐらいで困っている人、全部は払えないけど少しは払ってもいい、というような人へのサポート。社会保障と同じ問題を抱えていると思うんです。正社員になればいいんだけど、なれないレベルの人が困っているわけですから。全部は払えそうにない人を対象にしてほしい。
谷口
法律扶助の対象者にはかなり多くの人が該当するんです。例えば1、2歳のお子さんを抱えているお母さん。普通に働く能力はあるんだけれども、夫と別れるとなったときに、現時点では働けない、だから離婚費用を払うことはできない人は、法律扶助を使って、弁護士を頼めば徐々に生活としては立て直していけるだろうと判断され、法律扶助は使える仕組みになっています。
山田
自分も年収200万円、相手も200万円くらいの人は使いにくい。オールオアナッシングだと、やはり、こぼれる人は出てきます。
谷口
谷口 太規さん
貧困までではなくても、普通に生活をしていても、法的な問題、いろいろな問題を抱えているとすぐ孤立してしまう社会構造になっています。そうなったときまわりからは、飢餓にあっている子に比べれば、ホームレスに比べれば、派遣村に行っている人に比べれば、と言われますが、本人はどこか孤独を抱えている人が多くいると思います。そのとき、一時的に弁護士が寄り添い、伴走し、どこかにつなげてくれると、そういう孤立が解消されるという気はします。
香山
スタッフ弁護士をめざそうという人は増えているんですか。
草野
増えています。応募者も。
香山
医者でも過疎地に行く人が減ってきて、都会で利益を追求したいタイプが増えているのと同じように、弁護士さんも、厄介な意見を聞いてつなぐような仕事をするというよりは、もっとエンターテインメントロイヤーなどを志向する方が増えているのかと思いました。
太田
弁護士も食えなくなる、という人もいます。
谷口
スタッフ弁護士をめざす人は仕事に困って来ているのではなく、むしろ古いつながりがなくなっている中で、人々がつながる瞬間を目撃できる現場に多く立ちあえることに魅力を感じたり、感動したり、というような人が多く来ているようです。
太田
実際、弁護士が関わることで本当にその人の生活が変わるので、私たちも修習生やこれから弁護士になるロースクール生に多くそのことを発信し、法テラスに来てもらえるようにしています。
草野
二極化しているのではないでしょうか。
山田
弁護士の内面の問題もありますが、そうした経験やキャリアが、キャリアアップとして弁護士の地位を高める仕組みは必要だと思います。オバマ大統領も地域の社会福祉関係の弁護士から始めて、大統領までなりました。アメリカでは、公共的な仕事、NPOの仕事をしたことがキャリアとして評価され、上位の権限のある地位に昇っていくというシステムがあります。スタッフ弁護士のお二人は将来をどうお考えですか。
谷口
覚悟が大切だと思うんです。身を粉にして働き、その結果私たち自身が、いろいろなものから分断され、挙句の果て過労死するような状況はよくないと思うので評価されるシステムは必要だと思います。ただ、キャリアアップが目的ではなく、人々がつながる現場に関わること自体に喜びを感じられるかどうかなんです。派遣村でボランティア体験をしている人たちは、実は肩書きを見たらけっこう高学歴の人たちや、社会的地位のある人がたくさんいます。そういう人たちも派遣村で、関わること自体に喜びを感じているのだと思います。
香山
それには限界があると思うんです。若いときは、そういう仕事に喜びを感じていいのですが、それには期限があって、本当はそういう仕事に喜びを感じつつ、一方では自分たちには仕事もきちんとあったり家族がいたりするわけで、それはそれとしてエンジョイできることが必要ですよね。
山田
教育界を見ていてもそうです。いくら一生懸命やってもリワードが上がらない職ですから、若い先生で一生懸命熱心に働いて、子供の笑顔が報酬ですという人もいるんですが、数年で燃え尽きてしまうんですよ。志は貴重ですばらしいけれども、システムとしては志だけに頼らないキャリア制度も必要なんです。
草野
話を戻しますが、湯浅さんは法テラスに何を期待しますか。
湯浅

行政サービスの利用支援をどれだけ本格的に続けるか、位置づけるかということだと思うんですね。例えば民事法律扶助の費用は非常に貧弱、今の5倍くらいあってもおかしくないくらい。労働基準監督署の労働問題の付き添いも課題としては挙がっているということなので、それが、行政の支援をやるために、まずは「島」を、予算を増やすなどして大きくし、それがあってつなげられる領域が増えていきます。それと、それが弁護士の仕事だと、どれくらい自分たちで納得できるかということがあると思うんです。私は生活保護の申請とか労働者の付き添いなんていうのは、将来的には国選弁護のように弁護士がかかわるようになればいいと思っています。つまりお金は儲からないけど、弁護士としてやらなくてはいけない仕事という位置づけです。でも現実には「これが本当に弁護士の仕事か?」と思っている人は結構いるわけです。しかし法的なトラブルがあったときだけの登場になると、市民の身近にはならない。それができるような予算の裏づけと、意識的な位置づけが、行政サービス支援をやるというところで合致するかどうか。それは制度的にも必要です。なぜ労働支援の付き添いが必要かというと、さっき弁護士配置の人口比が出ましたけど、日本の労働基準監督官の人口比は、諸外国と比べてもとても少なくて、手が回らないんです。

湯浅誠さん
そういう意味で日本はもうすでに十分小さな政府なんですが、もっと小さくしようと言っているので、結局それを補充する人が大量に必要になっていく。それで、ここがさらにこま切れ化していくということになると、もうわけがわからない。行政サービスの利用支援が、労働基準の監督をしなければいけない役所の人が減っていくことを追認するような形になると、それはまずい。つまり新しい公共は古い公共を活性化するようでなくてはならない。社会の構造の中で法テラスが抱えている問題もかなり似通っていて、結局はそこを両面追求するということになる。それはかなり私たちのような民間のサポートする団体とも、公務員としてやっている人たちとも、だんだん境目がなくなっていくような仕事ではないかと思うんです。そこを付き添いや伴走的な支援をして、一つの島としてつなげていけるかというのが、大きな社会の課題なんです。
草野
いかに多くの人が自分の問題として考えられるようになるか、やはりそこをずっと思ってしまいますね。
湯浅
これは開き直って言う面もありますが、突き抜けてしまうしかないというのもあると思うんです。多くの人の理解を得ながら一歩一歩進んでいけるのが理想なんですが、一歩一歩はなかなか進められないので、ばーっとやってわーっとなるけど、そういうことにだんだん慣れていく中で、そんなもんか、という雰囲気が広がっていくというのもあるでしょうね。
谷口
法テラスは税金でできているというのがすごくおもしろいと思うんです。例えば国選弁護は秩序を犯した人の援助ですよね。民事法律扶助の支援を受ける人は自分の利益のために行動する人なんだけれども、その人たちに寄り添う人というのを税金で確保しているということ自体が、ある意味誰もが自分の権利なり自分の言葉を聞いてもらえるという土壌を保障することになっているわけですよね。そのことには私は法テラスに希望を持っていいということだと思っているんです。そして、ネットワーク形成は自分が楽をする手段でもあるんですよ。一人で背負わないで、みんなで受け持っていこうということですから。
湯浅
でもネットワークを作ると大変にもなってくるんです(笑)。

2010年1月25日法テラス本部 会議室にて



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