Vol.23 内藤 大助さん
更新日:2018年6月28日
いじめはなくなる そう信じてずっと言い続けたい
聞き手 法テラス 広報室 室長 相原佳子
ボクシングで変わった自分 そして乗り越えた挫折感
- 相原
- ボクシングに詳しくない私でも、ポンサクレック戦だけは覚えています。内藤さんはこれまで戦ってきた中で、どの試合がいちばん印象深いですか?
- 内藤
- それはもう、そのポンサクレックに勝った試合ですね。4回対戦して1回しか勝っていませんが、本当によく勝ったなと思います。化け物みたいに強いボクサーですから、正直勝てるとは思っていませんでした。
- 相原
- 彼との初戦ではかなり早く負けたそうですが、そこから世界チャンピオンにまで上りつめる原動力となったのは何ですか?
- 内藤
- 「人」ですね。最初の試合は敵地・タイで行われ、負けると「日本の恥」とまで言われました。当然、離れていった人も多く、悔しかったね。その一方で、負けた僕を応援してくれる人がいた。本当にバカだな、なぜまだ応援するんだろう? 最初はそんな気持ちでしたが、このバカみたいな人たちのために今度は僕がバカになり、強くなってチャンピオンを目指してやる。そう思ったんです。昔は人が大嫌いで人間不信だったけど、そんな僕がボクシングで変われ、最後は「人のおかげで」と思えるようになった。この変化には、自分でもビックリしています。良い意味で挫折したからこそ今の自分があると思います。
いじめが原因で人間不信に 中学3年で胃潰瘍を経験
- 相原
- 人が大嫌いで人間不信になっていたのは、どうしてですか?
- 内藤
- いじめです。中学2年から3年の2年間は本当に地獄でした。北海道の田舎だから逃げ場もないし、親に迷惑がかかるから登校拒否もできない。田舎だからこそ悪質だったという思いがあるなぁ。田舎は、人がそれほど大勢いるわけじゃないし、遊ぶ場所も限られている。簡単に言うと、強いグループと弱いグループができると、それがずっと続く。クラス替えをしても、2クラスしかないから、友達が変わるわけでもない。何と言うか、大きな変化がないんです。小学校に入学してから中学3年までの9年間、ほぼ同じメンバー。その中でいじめがあると、地獄です。
- 相原
- 逃げ場のない中で、つらい経験をされたわけですね。
- 内藤
- そう。いじめが始まったきっかけはクラス替えで、あるグループができた。その中の一人が僕のほうを見て笑ってる。どうやら「ボンビー、ボンビー」と言ってるらしい。 ボンビー? ボンビーって? 「オマエだよ、オマエのこと」って感じで。そうか、ボンビーはビンボー(貧乏)ということか。何で僕が貧乏なんだよ。そうしたら「オマエ、自分の家を見たことあるのか」。そう言われると急に恥ずかしくなり、気になり出してね。確かにボロいと。でも、しょうがない。母子家庭だしね。体も小さかったから、ケンカしてもかなわないし。何もかもが急に萎縮し出すようになり、孤立し始めたんです。中学3年の時だったかな、毎日下痢で、1日に5回も6回もトイレに行く状態が続いた。親に連れられて医者に行って胃カメラを飲んだら、胃潰瘍と診断されました。僕も他人を傷つけたことがあるかもしれないけど、やっぱり本当につらかったんだね、胃潰瘍になったくらいだから。
モチベーションを高めポジティブに生きる
- 相原
- いじめのつらい経験とボクシングのつらい練習。両方をご経験されましたが、今はどう思います?
- 内藤
- いじめのつらさよりはまだましだと、つらい練習にも耐えられた。でも、いじめられたからボクシングが強くなったわけではないし、いじめられて良かったとは絶対に言えない。それは違う。ただ、どうせだったらつらかったことをプラスに変えなきゃ。 そう思ってやってきたんです。と言っても、ボクシングを始めた頃は、仲間の一人に「内藤君はいつも否定的に考える。マイナス思考だね。ボクとはまったく逆」と言われていました。そんな自分でしたが、彼に影響を受けてポジティブに考えるようになったんです。 自分も日本ランカーになりテレビや雑誌に出たい。チャンピオンになりたい。そうやってモチベーションを持ち続け、それを高めることで、ひとつひとつ壁をクリアしてきました。もちろん、支えてくれた皆に応えたいというモチベーションも大きかったです。
いじめは一生続くわけではない 抱え込まないで誰かに相談を
- 相原
- ご自身の経験から、今同じ立場にいる小・中学生に声をかけてあげるとすれば?
- 内藤
- まず言いたいのは、いじめは一生続くわけじゃないということ。「どうせオレなんか」と思ってあきらめ、悩みを抱え込まないこと。身近な人に話すことで、少しは気が紛れるんですよ。もし先生に言えなかったら親に、親に言えなかったら友達に。友達にも言えなかったら、今の時代、電話相談もあるし、インターネットもある。何か自分に合った方法があるはず。とにかく人に話すこと、抱え込んじゃダメだよということは言いたいね。偶然に見たテレビのいじめ問題の番組で、ある人が「いじめは昔からある。なくならない」と発言したのに対し、別の人が「あんたが言っていることはおかしい。いじめがあることを前提にしている」と怒ったんです。僕もそう思う。「いじめはなくなるんだ」と言って欲しい。それから、「いじめられたほうにも問題がある」という考え方も違う。今ならはっきり言えるけど、「いじめているのは悪い。でも、いじめられるほうにも原因がある」というのは間違っている。悪いのはいじめられているほうじゃない。とにかく、一人で抱え込まないで!
- 相原
- とても説得力のあるお話でした。本日はどうもありがとうございました。
プロフィール
元WBC世界フライ級王者
内藤大助さん
1974年北海道虻田郡豊浦町生まれ。20歳を過ぎてからボクシングを始め、1996年10月にプロデビュー。2004年4月、WBC世界フライ級王者ポンサクレックに挑戦するが1R34秒でKO負け。2007年7月、18度目の防衛を目指すポンサクレックに3度目の挑戦で勝利し同級世界王者となる。42戦36勝(23KO)3敗3分。