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「被告人質問先行」を司法修習だけで終わらせない環境

更新日:2022年10月20日

私は現在、弁護士2年目ですが、司法修習生のとき、刑事弁護の講義で「被告人質問先行」というものを学びました。
被告人質問先行型の審理とは、捜査段階で作成された被告人の供述調書を取り調べるより先に被告人質問を行った上で、それでもなおその供述調書を取り調べる必要があるかどうかを判断するものです。
司法修習という実務に出る直前の時期に学ぶことですから、当然それが実務のスタンダードであると認識していました。

私が実務家になって間もない頃に受任した刑事事件で、公訴事実に争いのない自白事件がありました。前科はなく、特別不利な情状もなく、一見して執行猶予相当の事案でした。

ひょっとしたら、検察官が請求する証拠をすべて同意して、被告人の供述調書等を証拠として採用することに特段の異議を述べないという選択肢もあったのかもしれません。
しかし私は、検察官から証拠として提出された実況見分調書に違和感を覚えたほか、被告人の警察官面前調書、検察官面前調書のニュアンスにも疑問を抱きました。
誤りかと言われればそうではないのかもしれないが、決して被告人の意図することが正しく記載されていない、これは不同意対象ではないかと。
そこで、法テラスの「裁判員裁判弁護技術研究室」に質問をしました。

研究室の岡慎一先生は、刑事弁護の第一人者の一人です。
そのようなスペシャリストが、私の稚拙な質問にも時間をかけて丁寧に答えてくださり、また、こうしたらよいのではないか、とアドバイスをくださいました。
詳細は割愛しますが、被告人の調書については「不同意、ただし任意性は争わない。」とした上、「被告人質問先行で頑張ってみたら?」と仰いました。
司法修習で学んだ刑事弁護を純粋に信じていた私は、この「頑張ってみたら?」の意味については正直あまりピンときていませんでした。
被告人質問先行は、刑事弁護の常識であり、一般的だと思っていたからです。
しかし、その後、検察官に弁護人の意見を提出してその意味を知るところとなりました。

上記の意見を伝えた後、検察官からは「不同意にしたところで結論は変わらないのでは」などと言われ、意見の再考を促されました。
そこで、なるほど通常は同意するものなのか、と認識したのです。
検察官の言い分が全くわからないわけではありません。しかし、刑事裁判の現実を垣間見たような気がして、とても驚いた瞬間でもありました。

そうはいっても私は被告人の語るニュアンスで裁判官に伝えることが適切であるし、それで刑期が1日でも短くなるのであればそうすべきだ、という考えが揺らぎませんでした。
なにより同意をすることがどうしても納得できなかったのです。
そこで、これまた刑事弁護の第一線を走る、スタッフ弁護士の先輩である法テラス多摩法律事務所の村井宏彰先生に相談をしたのです。
村井先生は、「証拠意見は維持して何の問題もない、むしろ維持しなければならない」という回答とともに、その理由や対策まで丁寧に教えてくださいました。
自白事件で、重要な情状に争いがない場合であっても、被告人質問先行をすべきと迷わず背中を押してくださったのです。

ここが法テラスのすごいところだと思うのです。
「刑事弁護をやりたければ法テラスに来たらいい」と勧められる理由です。
刑事弁護の第一線を走る先生方に気軽に意見を聞けて、その先生方の思考過程を学ぶことができるのです。
しかも、刑事弁護に強いと言われる法テラス多摩法律事務所の先生方は私のような若手弁護士のちょっとした疑問をすくいあげて、痒い所に手が届くゼミを自発的に開催してくださるのです。
実務に出てからも、組織内部で気軽に第一線の先生方の講義を受ける機会があるなんて、他ではなかなかないことだと思います。
毎回勉強になって、毎回自分の中の常識がプロフェッショナルに近づいていく感覚です。

自動車は免許を取得したての頃に運転をしないと、次第に怖くなって運転できなくなると聞きますが、被告人質問先行も似たようなところがあると思います。
練習期間である司法修習中にいくらやっていても、実務に出て最初にやらないとやり方が分からなくなったりして怖気づいてできなくなると思います。
法テラスは、最先端の刑事弁護が「当たり前にある」環境であり、初心者マークの頃から最先端を自分の中に取り込み、自分の常識とすることができる場所です。
なお、頭書の事件は、なんとか被告人質問先行として進行できたものの、結果としては検察官の求刑どおり+執行猶予、という「定型」で終了となりました。
いつか「定型」を崩し、「セレモニー」ではなく「ライブ」のような刑事裁判の一端を担うことができるようになりたいな、などと思いながら、今日も私は贅沢な環境で被告人質問の質問事項を作成しています。

以下フッタです
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