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アメリカのBerkeleyからこんにちは! 第3回

更新日:2020年9月11日

法テラス東京法律事務所 橋ケ谷 祐可 弁護士(新63期)

Vol.4 Behavioral Health Court傍聴記

 

「I’m very very proud of you!」と声をかけながら、20歳台の女性を抱きしめて、一緒に写真撮影をする裁判官。裁判所の法廷の中で、しかも開廷中の出来事です。

2019年12月5日、Alameda CountyのBehavioral Health Court (BHC) では、第37回目の卒業式が開かれていました。

 

BHCは、精神疾患を抱えた被告人が、精神病院や刑務所に収容されることを回避し、地域(コミュニティ)で生活を立て直していくことをサポートするための裁判です。

通常の刑事裁判手続からBHCに移行すると、被告人は、12カ月から24カ月かけて、更生プログラムに参加したり、精神疾患の治療(トリートメント)を受けながら、定期的に裁判所に出廷します。

彼らを支えるのは、BHCのソーシャルワーカーで、ケアマネージメントのプランを作成し、実際にプログラムや治療を提供する人々(プロバイダー)と繋ぎ、経過を見守るという役割を担っています。ソーシャルワーカーは、参加者や家族、そしてプロバイダーに対する細やかな配慮、かたや裁判官・検察官・弁護人に対しても怯まず意見・助言ができるBHCに必要不可欠な存在です。

 

 

毎週木曜日に開廷するBHC。私は、開廷前の9時から行われる非公開のカンファレンスに何度か同席させていただく機会がありました。

一週間、被告人が地域でプログラムやトリートメントに参加してどう過ごしていたのか、裁判官、検察官、弁護人と一緒に情報共有する場です。

そこで見たのは、ソーシャルワーカーが「◯◯さん、ようやく住居も見つかって、仕事の面接の予定も入ったの!」とガッツポーズで報告すると、隣に座る裁判官が「Great Job!」と言いながら手を叩き、検察官も弁護人もみんなが顔を見合わせて喜び合う姿でした。

逆に、「連絡が取れなくなってしまって、プログラムにも通っていない」という報告に対しては、皆が落胆し、時には、担当するソーシャルワーカーに対し、他のソーシャルワーカーや裁判官から檄が飛ぶこともありました。

 

12月5日に開かれたのは、この1~2年のプログラムを無事に修了した被告人たちの「卒業式」です。

 

法廷には、「PROUD OF YOU!!」「CONGRATS! GRADUATE!」と書かれた横断幕が掲げられ、裁判官と記念撮影をするためのブースも用意されています。はじめに、ソーシャルワーカーたちが、この卒業式を迎えることができた卒業生たちに、メッセージを送ります。続いて、検察官が、一人一人の卒業までの長い道のりを話し始めました。

 

私は、カンファレンスで被告人のことを思い真剣に議論するソーシャルワーカーや検察官の姿を見ていたからか、裁判中とは思えないその場の温かさに、涙が溢れて止まりませんでした。

 

 

卒業生一人一人の名前が呼ばれると、盛大な拍手が沸き起こります。

傍聴席からバーを超え、証言台に歩いてくる卒業生たち。日本と大きく異なるのは、皆、ありのままの姿でいること。

ガムを噛みながら、ヘッドフォンで音楽を聴きながら。姿勢だって悪いし、歩き方だってだらしが無い感じ。そして服装も髪型も自由そのもの。

 

でも、それで何の問題もないのです。日本の裁判所のような厳かな感じは全くない。でも、それで「何の問題もない」ように私には見えました。これまで、被告人に対し、裁判官のウケが悪いだろうからと、「裁判にはきちんとした服装で来てください。」と助言をしていた自分に突き刺さります。

 

「裁判」の意味が、日本とこことでは根本的に違うのではないか。ここは、「裁く」ためではない、共に生きていくために必要なサポートを全力でするために、それを支える人たちが集まっている場所なのかもしれない。ソーシャルワーカーと抱き合い、検察官・弁護人とかたく握手をかわし、裁判官とも肩を抱き合って喜び合う光景に、そんなことを感じました。

 

その日はちょうど、裁判官Carolのお誕生日パーティーも開かれました。法廷で。

アメリカっぽいカラフルなクリームで彩られた巨大チョコレートケーキを、参加した全ての人で分け合います。

裁判官Carolは、2009年8月4日からずっと、BHCを続けてきました。あと数ヶ月で引退。アメリカでは当たり前になっている問題解決型裁判所(ドラッグコートやメンタルヘルスコート)は、個々の裁判官が、自身の裁量に基づいて独自に始めたのが最初だと言われています。アラメダ郡のこのBHCも、根拠となる法や規則はありません。裁判所と検察庁、公設弁護人事務所、そしてBehavioral Health Departmentとの4者間合意に基づきスタートした制度です。

 

この制度を日本にそのまま持ち帰ることは難しい、それはわかっています。

それでも、少しずつでも、できることがあるはず。そう思いながら、BHCに通っています。少しずつ、変化していく参加者たちの卒業も見届けることができればと思いながら。

 

次回は、UC Berkeleyで聴講している授業について、お届けします。
See you soon!!
【コラムの続きはこちら】アメリカのBerkeleyからこんにちは! 第4回

写真(左):BHC卒業式の案内。「卒業は終わりではない。始まりだ」という上院議員の言葉が引用されています。

写真(右):卒業式の日にBHCの法廷の中に設けられた写真撮影コーナーにて。「Congrats Grad!(卒業おめでとう)」と飾られています。右が筆者。左は、BHCと私を繋いでくださった丸山泰弘准教授(立正大学法学部、専門は犯罪学)。

  

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