このページの先頭ですサイトメニューここから
このページの本文へ移動
サイト内検索
本文ここから

アメリカのBerkeleyからこんにちは! 第2回

更新日:2020年9月11日

法テラス東京法律事務所 橋ケ谷 祐可 弁護士(新63期)

Vol.3 ブロンクスディフェンダーズ訪問記

今回は、私が留学を決意するきっかけとなったニューヨークのブロンクスディフェンダーズ法律事務所を実際に訪問できた時のことをお伝えします。

 

少し話は逸れますが、東京では、2015年から弁護士や社会福祉士などが連携して罪に問われた高齢者障害者のための支援事業が始まりました。事業の主体は、東京三弁護士会の刑事弁護委員会、東京精神保健福祉協会及び東京社会福祉士会です。

「入口支援」と呼ばれる活動で、具体的には、当該高齢者に福祉的な支援が必要な場合、ソーシャルワーカーのサポートを受けることができ、支援するソーシャルワーカーに対しては、弁護士会から10万円を限度に報酬が支払われます。

 

2019年11月1日、私は、この制度を立ち上げた弁護士及びソーシャルワーカーとともに、ブロンクスディフェンダーズ(Bronx Defenders, BxD)を訪問し、Holistic Defenseを学ぶ機会に恵まれました。

 

BxDのソーシャルワーカー部門ディレクター(責任者)を務めるLindsayが、淡々と、でも少し誇らしげに話をしてくれました。

「ソーシャルワーカーは、弁護士と対等なプロフェッショナルだから、裁判官や検察官と直接、法廷で意見交換をしている。時には、裁判官や検察官から直接問い合わせの連絡が来ることもある。」

「クライエントとの接見も、好きな時に時間の制限なく単独でできる。もちろん、弁護士から許可をもらう必要もない。」

 

念願のBxDに足を踏み入れ完全に舞い上がっていた私は、一瞬にして、その場から消えてしまいたい衝動に駆られました。アメリカで当たり前になりつつある実践と日本の現状との差のあまりの大きさに、同じ公的組織で働く弁護士であることが恥ずかしくなってしまったのです。

 

BxDは、ニューヨーク市ブロンクス区にある公設刑事弁護事務所です。ブロンクス区は、アメリカ全土で最も貧困が進む危険な地域と言われた時期もありました。現在でも、ブロンクス区の特に南部は、ニューヨーク市の中で最も過剰な警察介入がなされているといいます。

このブロンクスで、弁護士、そしてソーシャルワーカー数名で立ち上がった事務所がBxDです。

そして、Holistic Defense(包括的弁護)と呼ばれる新しいモデルを創り、全米に浸透させたのも、彼らです。

 

Holistic Defenseとは、目下の刑事事件に必要な弁護活動のみならず、そもそもクライエントを刑事手続に引き込む原因となった生活環境や生きづらさの解決にも取り組もう!という試みです。

刑事以外の問題にも対応するために、様々な分野の専門家でチームを結成します。例えば、BxDでは、刑事弁護人、移民・民事・家族事件を専門とする弁護士、ソーシャルワーカーがチームを組むことによって、クライエントに対し、ドラッグトリートメントの開始、メンタルヘルスサービスへのアクセス、雇用を継続するための交渉、住居の確保、移民関係の書類提出等の手助けをすることが可能になります。

 

その日、インタビューに応じてくれたBxDのソーシャルワーカー、LindsayとOrayneは、終始、眩し過ぎるくらい生き生きと、自分たちソーシャルワーカーがいかに刑事弁護に必要不可欠な役割を担っているかを熱く語ってくれました。その時、彼等の口から繰り返し聴こえたのは、「bridge(橋渡し)」という言葉でした。

 

刑事手続や法律用語に馴染みのないクライエントと弁護士のみならず、裁判官、検察官のコミュニケーションを「bridge」する役割。そして、弁護士を含むスペシャリストチームのメンバーとクライエント、そしてクライエントとコミュニティで活動する団体、地域住民を「bridge」することができるエキスパート。

それがソーシャルワーカーだと、彼等は断言しました。

 

インタビューを終える頃には、いつの間にか、私の消えてしまいたい衝動は何処かに吹っ飛んでしまっていました。

Lindsayは日本から来た私たちにメッセージをくれました。

「ブロンクスディフェンダーズも、最初は僅か数名から始まった。裁判所も誰もソーシャルワーカーの話なんて聞いてくれなかった時代があった。でも、私たちは諦めなかった。何度も何度も話を聞いてくれと、弁護士と一緒に伝えて続けた。そうしたら、徐々に、ソーシャルワーカーを受け入れてくれるようになった。日本のあなた達も、私たちと同じ。もう最初の一歩を踏み出してる。」

この彼等の情熱が、クライアントを動かし、刑事司法を動かし、そしてアメリカ全土の刑事弁護人達を動かしてきたのだと、確信することができました。

 

Lindsayと名刺を交換したその日の夜、Lindsayからメールが届きました。そのメールの最後の一行を読んで、彼等ソーシャルワーカーが、日々こうやってクライエントを励ましていることを体感したのでした。

「Keep up the good fight!!」

 
次回は、アメリカのソーシャルワーカーが大活躍するMental Health Courtについて、お届けします!!See you soon!
【コラムの続きはこちら】アメリカのBerkeleyからこんにちは! 第3回

(※写真:私たちの訪問を伝えるBxDのSNSより(掲載許可取得済み)。カメラに背を向けてノートパソコンの前にいるのが私です。)

インタビューの様子


以下フッタです
ページの先頭へ