約束したとおり先生に会いに行ってよかった
更新日:2019年3月1日
法テラス福岡法律事務所 柿木 翼 弁護士(新62期)
「先生、私を覚えていますか?」
男性が事務所で私を待っていた。
私がスタッフ弁護士として雲仙市に赴任し、三年目のある朝だった。
話をするうちに、法廷でのやりとりが甦った。
彼の弁護を担当したのは雲仙に来てすぐのことだ。
別件で服役後、出てきてすぐにコンビニで弁当を盗んだ。
元暴力団組員で、これまで何度も盗みを繰り返してきた前科持ち。
当然、実刑判決を受ける。
そして出てきたばかりの刑務所に戻っていった。
公判で、「どうして弁当を盗んだのですか?」と尋ねた。
「出所して故郷に戻っても、元組員なんか雇ってくれるところもなくて、お腹が空いたからです。」彼は答えた。
「では、今度出てきたらまた盗みをするのですか?」重ねて聞く。
「いいえ、先生に『刑務所から出てきたら、法テラスに来なさい。』と言われたのでそうします。」彼は約束した。
刑を軽くするためのやりとりだった。
しかし、彼は約束どおり出所後すぐに訪ねてきたのだ。
すぐに一緒に支援を受けに行く。
担当者は難色を示したが、「元組員というのは援助を受けられない理由にならないはずだ。」と説得し、援助を受け普通に生活できるようになった。
「約束したとおり、先生に会いに行ってよかったです。」
今までにもらった中で最高に嬉しかった言葉の一つだ。
これまで、出所しては故郷に戻り食べ物を盗んで捕まることを繰り返していた男性。
全国津々浦々に弁護士がいることの意味を感じた瞬間だった。