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制度を動かすのは人だ!人を育てよう!

更新日:2020年3月30日

日弁連総合法律支援本部顧問 石田 武臣 弁護士

 石田武臣弁護士にインタビューしました。石田弁護士は、弁護士生活52年目を迎える大先輩で、都市型公設事務所の草分け的存在である東京パブリック法律事務所の初代所長に就任されて以来、数多くのスタッフ弁護士やひまわり基金法律事務所に赴任する若い弁護士を養成し送り出してこられました。
 また、日弁連総合法律支援本部の委員(副本部長、現在は顧問)として、法テラス創設の当初から制度作りに尽力され、時にスタッフ弁護士1人1人の悩みに寄り添い、支えてきてくださいました。
 そんな石田弁護士に、制度作りや都市型公設事務所の成り立ち、そして「なぜそこまでできるのか?」を聞いてみました。Facebookの記事としては長文ですが、都市部で養成して地方に送り出すという「養成」制度の趣旨や石田弁護士のエネルギーの秘訣もわかります。どうぞお楽しみください。
(インタビュアー:冨田さとこ(法テラス本部犯罪被害者支援課長)

前傾姿勢

今までに何人のスタッフ弁護士とひまわり基金法律事務所(※注記)の弁護士を養成されましたか?

 (大笑い)。いったい何人だろうね。数えきれないよ。マンツーマンで直接養成してきたのは15~6人くらいかなぁ。東京パブリックでは17年間でちょうど50人くらい……。
 
 

愚問でした(笑)。直接育てられた人だけでなく、私のように事務所が違っても何かの形でお世話になっているものも入れたら、本当に数え切れませんね。スタッフ弁護士を養成してから派遣するというのは、どのような経緯でできた仕組みなのでしょうか。

 法テラスが設立される前から、ひまわり基金法律事務所に派遣する弁護士の養成制度がありました。若い弁護士を都市部で採用し、1年半から2年かけて育てて司法過疎地に送り出す制度です。
 経験のない若い弁護士をそのまま過疎地に派遣したら、すぐに壁にぶつかってしまう。一人で潰れてしまうかもしれない。そこで、東京パブリック法律事務所や桜丘法律事務所など、いくつかの事務所で若い弁護士を育てて過疎地に送り出していました。
 法テラスについても、司法過疎の解消が一つの課題だったので、ひまわり基金法律事務所をモデルにした養成制度が導入されることになりました。

スタッフ弁護士の場合、養成期間は1年間とひまわり基金法律事務所より少し短めです。1年間で十分でしょうか。

 そりゃ、養成期間が長いほうが経験は積める。しかし、1年しかないと思えば、その期間は集中して必死に勉強するはずだから、基本的なことは身に着けられると思う。みんなキツイ養成期間を頑張っていますね。
 ただ、事件の多くは解決までに一年はかかるため、一年間の養成では、その後半で受任した事件は最後まで担当することができない。この点では、もう少し長くてもいいようにも思うが、予算の関係などもあるし、やむを得ないかなとも思う。その分、法テラスは赴任後の研修や業務支援室などフォローするシステムを、後からどんどん充実させてきていますね。 

インタビュー風景

石田先生が初代所長となった東京パブリック法律事務所ができた経緯を教えてください。

 東京パブリック法律事務所は、東京弁護士会が財政支援をして設立された事務所ですが、その構想の中心課題としては弁護士任官制度がありました。
 普通の市民法律事務所では任官者を出すのは難しいから、公設事務所を作ろうという機運が盛り上がった。そこに、ちょうど日弁連のひまわり基金制度ができて、司法過疎地に赴任する若手弁護士を養成する必要が生じた。弁護士任官と言っても、本当に市民に近い仕事をしてきた弁護士を送らなければ意味がない。
 それなら、司法過疎地に赴任する若手を養成してひまわり基金法律事務所に派遣し、彼らが任期を終えて戻ってきたら、更に経験を積んでもらって「市民の弁護士」として裁判官に任官してもらうベースキャンプを作ろうという話になった。この構想に共感したし、私の足場である池袋に作るということになったので、所長を引き受けることにしました。

一朝一夕には完結しない壮大な構想ですね。

 どんな制度でも結局は「器」に過ぎず、それを活かすのは人です。人を育てないと、いい制度も形骸化してしまう。時間はかかっても、一人一人きちんと育てて、しっかりとした土台を作るべきです。残念ながら任官に繋がった例はまだ少ないけれど、15年以上経ったいま、各地の都市型公設事務所などで育ったひまわり弁護士やスタッフ弁護士が全国各地で活躍しています。嬉しいですね。

先生は、2002年6月に東京パブリックを開設されてから現在まで、スタッフ弁護士を直接養成することはもちろん、日弁連の委員会などでも、陰ひなたに膨大な時間を使ってスタッフ弁護士の面倒を見てきてくださいました。なぜ、そこまでできるのでしょうか。

 抽象的には、司法制度がいつか本当に民衆のために機能するようになって欲しい、司法官僚制度を改革して法曹一元を実現させたいという夢があります。ただ、それを実現するための全体的な方法は漠然としていて答えが出ていない。したがって、スタッフ弁護士を育てたり面倒を見たりしているのは、司法制度改善のためという意識をもってやっている訳ではない。
 本当のことを言えば、「面白いからやっている」ということに尽きます。人を育てるのは楽しいし、面白がってやっています。事件も同じ。難しい事件ほど、打開策を見つけるのは楽しい。なんでも無理矢理にでも楽しくしちゃっているのかもしれない。 
 
 

笑顔

どうやったら難しい事件に楽しく対処できますか?

 んー、どうしたら楽しく・・・(長考)。
 仲間と一緒に夢や希望をもって共にやることかもしれない。僕は弁護士をやって52年になりますが、その間、事務所を1人でやっていた期間はごく僅かだし、事務所の外にも仲間を作ってきた。

 1人でやれる範囲なんて知れていて、仲間と力を合わせて初めて大きなことができる。お互いに支え合うこともできる。いま「楽しくない」と思う若い弁護士が目の前にいたら、「仲間に相談しろ」と言いたい。スタッフ弁護士は全国に仲間がいるのだから、お互いに助け合えば楽しく仕事をできると思う。
 あと、僕は自由に生きたいという欲望が強い。自分がわがままなことも分かっているのだけど、わがままを言うためには、人の言うことも聞かなければいけない(笑)。自分が自由に生きるということは、相手の自由も尊重しなければならない。若い頃は苦手でしたが、今は人の意見を聞いて、その上で自分が自由に楽しくやっています

いまはどんなことをされていますか?

 いまはスタッフ弁護士やひまわり基金法律事務所から戻ってきた弁護士を受け入れて、1~2年面倒を見て飛び立たせています。個性豊かな若い弁護士と一緒に仕事をするのが楽しくて仕方がありません。

 司法過疎地や地方で頑張ってきた弁護士は、特に家族関係や福祉関係の事件で経験を積んで力をつけているが、オールラウンドに何でもできる訳ではありません。スタッフ弁護士を卒業した後、町弁として独立して仕事を続けていくためには、中小企業の法務など様々な分野に対応できる力が必要なので、それを応援することに注力しています。

最後にこれから弁護士になろうと思っている学生や、あるいはスタッフ弁護士になることも考えている司法修習生に一言お願いします。

 「困っている人の力になりたい」と思って法曹を志しているのであれば、スタッフ弁護士はとてもいい仕事だと思います。

 本当に困っている人に寄り添い、どうしたらいいのか考えることができる。やった仕事を感謝される。その「感謝」は言葉にされるかどうかは関係ありません。窮地に陥った人が、もう一度生き生きと人生を送ることに繋がる。すぐには活力を取り戻せなくても、やがて繋がる。そんな仕事ができる。こんなに面白いことはありません。それに共感してくれる人にスタッフ弁護士になって欲しいと思います。

 「今どきの若者は」なんて言う人がいるけど、真っすぐに生きている若者はたくさんいます。法曹を目指す人の中にも、少なくない人が「本当に困っている人のために法律の専門家になりたい」と思っていると考えています。そういう人にはスタッフ弁護士になることも考えてみて欲しいと思います。
 
 

石田弁護士とひまわり基金法律事務所・法テラスの歩み

1968年 4月  石田弁護士 弁護士登録(司法修習20期)
2000年 6月  ひまわり基金法律事務所第一号開所
2002年 6月  東京パブリック法律事務所開所(石田弁護士が初代所長に就任)
2004年 6月  総合法律支援法公布
2006年10月 法テラスが業務開始(法律事務所21か所開業)
2017年     石田弁護士が弁護士生活50周年を迎える
2020年3月現在 法テラス法律事務所86か所、ひまわり基金法律事務所44か所、都市型公設事務所12か所
 
 
※ひまわり基金法律事務所:弁護士過疎解消のために、日弁連・弁護士会・弁護士会連合会の支援を受けて開設・運営される法律事務所のこと。日弁連から開設・運営資金の援助が行われるほか、事務所ごとに「支援委員会」が設置され活動をサポートしている。2000年6月、島根県浜田市に「石見ひまわり基金法律事務所」が開設されて以来、累計118か所に設置された(2018年10月1日現在)。任期終了後に定着するなどして、現在稼働しているのは44事務所(日本弁護士連合会のホームページより)。

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