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八雲(北海道)と島根のスタ弁活動に見る司法アクセスの戦略性

更新日:2020年3月11日

本部犯罪被害者支援課長 冨田 さとこ 弁護士(57期)

「司法過疎」という概念はひと昔前に比べて拡大した。
以前は地方裁判所支部に弁護士がいない又は一人しかいない地域のことを「ゼロワン支部」と呼び、日弁連によるひまわり基金公設事務所や、法テラスの地域事務所の設置を進めた。現在は裁判所がない中規模の市町村や、地方裁判所本庁管内であっても交通手段が限られる地域に対する司法アクセス障害解消も広く「司法過疎」対策の対象となっている。
 
いずれの「司法過疎」にも共通するのは、需要が供給を大きく上回っているということだ。
その対策に当たって重要なのは、限られたマンパワーを効率的に投入して、パフォーマンスを最大化することである。
自身が当該任地を離れた後も効果が持続するように、属人的な要素を減らしながら長期間続けられる仕組みも重要となる。
この2つの観点で戦略的に取り組んでいる法テラス八雲法律事務所と、島根県内のスタッフ弁護士の活動を紹介したい。

 

法テラス八雲法律事務所のスタッフ弁護士

法テラス八雲法律事務所は、函館地方裁判所管内の7町村を管轄する八雲簡易裁判所に対応して設置された。
さすがに北海道は広い。
約45,000人の管内人口が、3,351キロ平方メートルに散らばっている。
高齢化率は高く、自宅から遠出できない高齢者が多い一方、管内に常駐する弁護士はスタッフ弁護士2名だけである。
出張相談の依頼は多いが、特に冬場の豪雪を乗り越えて訪問していると、1件当たりにかかる時間が他の業務を圧迫してしまう。

八雲に赴任している鳴本翼弁護士は、利用者の利便性向上とともに、弁護士の出張相談業務の効率をあげるために「指定相談場所」の設置を目指すことにした。
指定相談場所とは、法テラスの法律扶助相談の仕組みの一つで、自治体や福祉事務所などで法律扶助相談を実施することを可能にする制度である。
いくつかの条件を満たす必要があるが、この制度を使えば、法テラスの事業所のない自治体で相談会を開くことも容易になる。
 
鳴本弁護士らが、自治体に働きかけた結果、法律相談のために無償でスペースを提供してもらえることとなった。
更に、弁護士会や法テラス内部とも調整し、平成30年4月に管内2つの自治体の保健福祉センターが法テラスの指定相談場所となった。
その結果、当該相談場所まで出てこられる方であれば、効率的に相談を受けることができるようになり、利用者にとっても相談実施時期の予測ができるようになり利便性が向上した。

 

法テラス島根法律事務所のスタッフ弁護士


島根のスタッフ弁護士は、サービスの持続性の観点から課題に取り組んだ。
東西に長い島根県では、東部の松江市、西部の浜田市、島しょ部の隠岐郡に3つの法律事務所が設置されている。
高齢化・過疎化が進む県内では、やはり高齢者や、それを支援する福祉関係者からの法的サービスのニーズが高い。
松江や浜田に赴任した歴代のスタッフ弁護士は、積極的に福祉機関と連携を築き、定期的に社会福祉協議会を訪問するなどして、福祉・介護職が気軽に弁護士に相談できる体制を整えていった。

しかし、法的サービスが十分に行き届いていない市町村が残っている。
その一つが、県中央部に位置する大田市である。
松江市からも浜田市からも車で一時間以上かかる。
県下の関係機関を対象とした法テラスの地方協議会で、昨年11月、大田市の地域包括支援センターの職員から、「大田でも松江や浜田でやっているような活動をして欲しい!」と声があがった。
法テラス島根の桑原慶弁護士や同浜田の三上早紀弁護士らは、知恵を出し合い、継続して活動するために過度な負担とならないよう、松江と浜田からそれぞれ1名ずつ計2名体制で大田に出向くことにした。

まずは、両事務所に所属するスタッフ弁護士4名全員で大田市地域包括支援センターを訪問して、地方協議会に出席していない職員も対象に業務を説明し、法的支援の重要性などを理解してもらった。
その後、本年4月と5月に、松江と浜田からそれぞれ1名ずつのスタッフ弁護士が大田市を訪問して「大田市版連携ケース会議(仮)」を実施し、高齢者を介護・支援する人たちに対し、法的問題を抱える当事者への支援について、情報提供を行った。年内のケース会議の日程が決まり、現在も大田市への訪問は続いている。
 

司法アクセスの戦略性 -効率化と持続可能性-

八雲では法律扶助の制度を使って効率化を図り、島根では複数の事務所に所属するスタッフ弁護士が協力することにより持続的な活動を目指した。
いずれの事務所も課題に効果的に対処するために、長期的な視点をもって「司法過疎」対策を考えている点が注目に値する。
彼らが設計した制度は、後任者の活動をよりスムーズにし、更なる地域サービスの展開に繋がるだろう。

なお、個人的には、若いスタッフ弁護士は、縁もゆかりもない土地に赴任して、目の前の事件、特に受け手のない事件を一所懸命にこなすだけで十二に称賛に値すると考えている。
八雲や島根のように自主的に行うならともかく、それ以上のものを、他者が期待したり、まして押し付けるべきではない。
地域の需要に応えようとするばかりに手を広げた結果一人一人の依頼者に目が届かなくなってしまったら、「信頼関係の下に個人から委任を受ける」弁護士業務の根幹が揺らいでしまう。

赴任したばかりのスタ弁には「焦らないで」と伝えたい。
先輩や仲間の経験の上に立てるのもスタッフ弁護士制度のメリットである。
紹介した2例を含む先達の経験に大いに学び、数年の経験を経た後に自分の事件処理を俯瞰してみる余裕ができたら、その時こそ、戦略を持って若手を励ましながら前に進んでほしい。

八雲・鳴本SB 法テラス八雲法律事務所 鳴本翼弁護士

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