このページの先頭ですサイトメニューここから
このページの本文へ移動
サイト内検索
本文ここから

「権利擁護センターつしま」の設立にみるスタ弁の役割

更新日:2020年1月31日

犯罪被害者支援課長 冨田 さとこ 弁護士(57期)

いもうと弁護士(法テラス対馬法律事務所・金澤万里子弁護士)を自慢します!

弁護士経験のない法曹資格者がスタッフ弁護士になる場合、弁護士登録後少なくとも1年間は、一般の法律事務所で「養成」という名の修行をする。
この修行先(養成事務所)は、スタッフ弁護士にとって、いわば「実家」である。
各地に飛び立ってからも何かにつけて相談をすれば泣きつきもする。同じ事務所出身の後輩スタ弁は特にかわいい。

法テラス対馬法律事務所に赴任している金澤万里子弁護士は、私にとって、そんな同じ実家で育った妹のような弁護士の一人である。
対馬で活躍する彼女に記事を書いて欲しいと頼んでみたが、笑いながらするする逃げていく。おや???甘え上手な彼女に請われて、養成中の金澤さんのためだけにパソコン講座を開いたのは私だったような気がするが・・・。まぁいい。可愛い妹弁を自慢したくて仕方のなくなった私は、金澤万里子の大活躍を勝手に記事にすることにした。
きっとこれも甘え上手な妹の術中にはまっているのだろうと思いつつ。

 
===========
さて、やっとここからが本題です。気分を変えて「ですます」調でいきます!

平成28年10月、金澤弁護士は、養成先である桜丘法律事務所を巣立ち、長崎県の離島・人口約3万人の対馬に赴任しました。
赴任当初の活動は、日弁連の「自由と正義」に金澤さん自身が寄稿しているので(2017年12月号「スタッフ弁護士奮闘記:赴任後1年が経過して」)、そちらを参照してください(ん?日弁連からの依頼なら執筆するのか?)。

こちらでは、社会福祉協議会(社協)や市の職員と協力して、成年後見の受け皿となる権利擁護センターを立ち上げた様子をお伝えします。

対馬に赴任してしばらく経つと、金澤弁護士は、島内の成年後見制度利用率の低さに疑問を持ち始めます。
高齢化の進む島で需要があるはずなのに、平成27年度も、平成28年度も申立はゼロ。
理由を調べるうちに見えてきたのは、市民だけでなく、高齢者を支える専門職ですら感じている成年後見制度のハードルの高さでした。
 

「そんな制度を使ったら笑いものになる」
「裁判所で手続をするだと?訴訟沙汰にでもするつもりか」
成年後見が必要な方の親族に言われました。
 
「制度の存在は知っています。でも難しそうで…」
高齢者福祉に携わる人も、裁判所で行う手続の前に及び腰です。

制度に対する理解を広め、利用を促進させることが必要であると思い至りました。
法テラス長崎の地方協議会を対馬で開催することを皮切りに、社協と協力して、老人クラブや専門職向けの研修を始めました。

 
「ちょっと待って。制度周知の結果、爆発的に利用が増えても、成年後見人のなり手がいません」
制度をよく知る人からは、懸念も示されました。
それならば受け皿も一緒に作ればいい。
金澤弁護士は止まりません。
社協や、市役所の職員に同じ問題意識を持つ仲間を見つけ、話し合い、法人後見を立ち上げることにしました。

法テラスには、トレーニー・トレーナー研修(通称、トレトレ)という、先輩職員のもとで短期間研修を受ける制度があります。
金澤弁護士は、トレトレを使って法テラス下田法律事務所のスタッフ弁護士のもとで、下田社協とともに法人後見を立ち上げたノウハウを学びました。
そして、それをすべて対馬に持ち帰り、対馬社協と共有し、作戦を練り上げました。

その結果、2つの委員会が立ち上がりました。
委員会は、まずニーズ調査を行うことにして、島内の介護事業所と障害福祉サービス事業所を直接訪問して、直接ニーズを聴き取りました。
時間も手間もかかる訪問調査にこだわったのには理由があります。
制度を知らない人に対して、「あなたの施設の利用者の中に、後見が必要な人はいますか?」と紙で聞いてみても、よく分からないまま回答されてしまうからです。

ニーズ調査の結果、数多くの需要が埋もれていることが分かりました。
さらに、ニーズ調査の面接をしたケアマネージャーから、「後見申立を進めて欲しい利用者がいる」と積極的な声があがるようになりました。
高齢者を最前線で見守るケアマネの意識から、後見へのハードルが取り除かれたのは、直接訪問によるニーズ調査の思わぬ副産物でした。

委員会には様々な職種が参加しました。
会議の中に多様な視点を取り入れることはもちろんですが、予算や人員の獲得をはじめとする制度の構築のためには、役割分担が必要だったのです。
ニーズ調査の結果は、市長や副市長にも共有されました。
少しずつ成年後見申立の件数が増加したこともあり、市議会の意識も変わってきます。
ついに令和元年7月1日、権利擁護センターつしまが開設されました。

「成年後見?なにそれ、おいしいの?」という状態から、わずか2年半で権利擁護センター設立に至った経過を振り返って、金澤弁護士は次のように話します。

「『あれ?』という感覚を大事にして問題意識をもったこと。
地域の現状を把握し、他の地域から学んだこと。
思いを共有する仲間と、常に楽しむことを忘れなかったこと。
それが結果に繋がったのだと思います。」

======

以上、すてきでしょ?
情熱と知性を持ち、仲間を大切にして笑顔を忘れず、先輩ころがしの上手な妹弁護士の自慢でした。

彼女の活動を支えたのは、トレトレでの知識の共有、すなわち歴代・全国のスタッフ弁護士が積み重ねてきた経験です。
公的機関の弁護士として、津々浦々に先進的な地域の活動を持ち込み、もっとも遠い人に法律の光を当てる。
金澤弁護士の活動は、縦横に仲間がいるスタッフ弁護士のスケールメリットを最大限に活用して、その存在意義を示した好例だと思います。

以下フッタです
ページの先頭へ