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ありがとう、あなたがた2人に頼んで良かった

更新日:2021年1月19日

法テラス千葉法律事務所 若林 亮 弁護士(65期)


若林弁護士が手話で話している様子


はじめに

「ありがとう、あなたがた2人に頼んで良かった」

今まで弁護士の仕事をしてきたなかで、依頼者、関係者から上記のような言葉をかけていただいたことがたくさんあります。

「2人」とは、私と、手話通訳士の2人のことです。

私は生まれつき重度の聴覚障がいがあり、両耳とも補聴器をつけても人の話し声を聞き取ることはまったくできません。また耳で日本語を聞いて育つことができなかったので日本語の発音発声もままなりません。

そのような障がいがあっても弁護士の仕事ができるのでしょうか。答えはYESです。手話通訳士と一緒であればです。

弁護士を目指して

 私の先輩に、私と同じくらいの聴覚障がいをもつ田門浩弁護士がいます。
私が小学生だったときに田門氏が弁護士になりたいと話している記事を新聞で読んで、聞こえない人がコミュニケーションがすべてという弁護士の仕事ができるのだろうかと驚いたことを覚えています。
私の驚きをよそに、田門氏は私が大学生のときに司法試験に合格しました。
私はそのころから田門氏のあとに続きたい、弁護士になりたいと思うようになり、大学時代に司法試験の勉強もしました。
しかし、そのころは就職氷河期。当時の私は就職を選びました。

ところが、入ったのが、新聞社であったことが災い?(幸い?)しました。
仕事上読まなければならなかった他社の新聞記事に、また田門氏の名前を見つけてしまったのでした。
すでに田門氏は弁護士となり、手話通訳士とともに活躍されていました。
また、弱い立場にある人のために活躍する他の弁護士の記事も目にしました。

 
私も、また「弁護士になりたい。田門氏やいろいろな弁護士のように、弱い立場にある人の役に立ちたい」という気持ちが強くなってきました。
気づくと私は30歳になっていました。
道を変えるなら今しかないと思い、私は新聞社を辞めて、法科大学院に進みました。

 


遠藤さんが通訳をしている様子

スタッフ弁護士として採用されて

司法試験合格後、法テラスは私をスタッフ弁護士に採用してくれました。
内定をもらったとき、「私もこれから人の役に立つ仕事ができるかもしれない」という嬉しさで胸がいっぱいになりました。

 
また法テラスは、同時期に手話通訳士の遠藤友侑子(ゆうこ)さんを常勤職員として採用してくれました。
2013年1月法テラス東京法律事務所に入所して、法テラス千葉法律事務所に移った現在まで遠藤さんと一緒に仕事をして7年と9か月ほどになります(令和2年9月現在)。

 
私と遠藤さんの仕事の方法は次のとおりです。
遠藤さんは相手方の話を耳で聞いて手話で私に通訳してくれます。
私の話は私が手話で表し、遠藤さんが目で読み取って音声日本語にして相手方に通訳してくれます。この通訳は同時通訳です。
外国語通訳のように音声がかぶることを心配しなくていいので時間差のない非常になめらかな通訳となります。
さらに、遠藤さんは、相手方の声の調子や感情(興奮しているか、不安そうにしているか、嬉しそうにしているか、悲しそうにしているかなど)をも表情などで「通訳」してくれます。
私と相手方はコミュニケーションがよどむことがなく、しかも、私は相手が今どう感じているかを意識しながら、言葉を選ぶことができます。
相手方と私とのコミュニケーションはずれることがまったくなく、信頼関係を築くことができてきました。
聴覚障がいのある私も遠藤さんの通訳のもと電話をかけることができます。
法廷での尋問のときも聴こえる弁護士と同じ制限時間の中で必要十分に尋問をこなしてきました。

 
依頼者も、遠藤さんと2人で仕事をする私のスタイルに初めは驚くこともありますが、しばらく話をしているうちに、「若林はこういうスタイルで仕事をする弁護士なのだな」と理解、信頼してくれるようになりました。
今まで一度も依頼を断られたことはありません。

 
ある刑事事件の依頼者で、少年院を含め前科前歴が20件近くあった方からは、
「(被告人質問で)味方と味方に挟まれてこんなに心強い裁判は一度もありませんでした。今回の裁判を最後にしたいと思います」というお手紙を下さいました。
弁護人の私だけでなく、証言台で依頼者のそばに立った遠藤さんをも味方と思って下さったのだと思い、素直に嬉しくなります。

 
弁護士になって以来、数え切れないほどの依頼者、関係者(裁判所等だけでなく社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、区役所のケースワーカーや障害福祉課、高齢福祉課の担当者、民生委員、依頼者の親族や対立相手、不動産会社、病院や警察の関係者など)と会ってきましたが、そのいずれの場面でも遠藤さんとワンセットで信頼して頂けたと思います。
法テラスは、「人の役に立ちたい・・・・・・」という気持ちを存分に果たせる場です。
聴覚障がいのある私も、私と遠藤さんなりのスタイルで数多くの人の役に立ってこれたと自負しています。
コラムを読んで下さった方にも人の役に立ちたいという気持ちがありましたら、ぜひとも法テラスのスタッフ弁護士を目指して頂けたらと思います。

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