やさしい日本語

「夫が私を叩いたり、大きな声を出したりします。とても怖いです。」

外国人女性のイラスト

私は外国人です。日本人の男性と結婚しました。「日本人の配偶者等」の在留資格で、日本で生活しています。
夫とのあいだに子どもが1人できました。子どもが小学校に入ったときから、パートタイムで働きはじめました。

その頃から、夫は私に、「家の仕事がきちんとできていない。外に出ないでずっと家にいろ。」と言うようになりました。
子どもの前で、ほとんど毎日、大きな声で言いました。お酒を飲んだときは、いつも私を叩きました。
私は子どもをつれて家を出て、友達の家へ逃げました。夫が知らない友達です。友達は私を守ってくれました。

夫はとても怒りました。私に何回も電話をしてきて、大きな声をだしました。
私が電話に出ないと、会社に何回も電話をしてきました。会社へ来て、大きな声で私を出せと言うこともありました。
私は毎日とても怖いです。

Q 質問

  1.  夫には会社に来てほしくないです。会社や私に電話することも、やめてほしいです。どうすればいいですか。また、子どもが学校へ行く途中で、夫が子どもを連れていくかもしれません。そのことも心配です。
  2.  いつまでも友達の家にいることはできません。アパートを借りて引っ越したいです。その準備をするために、一度(いえ)へ帰って、荷物を取りたいです。でも、夫が怖くて帰ることができません。どうすればいいですか。
  3.  新しい住所を、夫に知られたくありません。どうすればいいですか。
  4.  あと8か月で在留資格がきれます。夫には、在留期限をのばすことに協力してもらうことはできません。どうすればいいですか。

A 答え

法テラススタッフのイラスト

  1. 「DV防止法」(法律の正しい名前は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)という法律があります。この法律を使って、裁判所に次のことをするよう求めることができます(これらの命令をまとめて「保護命令」といいます。)。
    • あなたの住んでいるところや、会社の近くに来ることを禁止すること(「接近禁止命令」といいます。)。
    • あなたに会うことを求めたり、電話したりすることを禁止すること(「電話等禁止命令」といいます。)。
    • 子どもの近くに来ることを禁止すること(「 子への接近禁止命令」といいます。)。
  2. 夫に2か月の間、家から出るよう裁判所から命令すること(「退去命令」といいます。)を求めることができます。その(あいだ)に、荷物を取りにいって、引っ越しの準備をすることができます。
  3. 引っ越したあとの住民票を、夫に渡さないよう、役所に求めることができます。
  4. 今の在留資格がなくなる前に、在留期間をのばす必要があります。または、在留資格を変えるよう申し込む必要があります。
    夫から叩かれたり、大きな声を出されたこと(「DV」といいます。)を、入管に言ってください。夫の協力がなくても、「日本人の配偶者等」の在留期間をのばすことが認められるかもしれません。または、在留資格を「定住者」などに変えることが、認められるかもしれません。

説明

1. 夫には会社に来てほしくないです。会社や私に電話することも、やめてほしいです。どうすればいいですか。また、子どもが学校へ行く途中で、夫が子どもを連れていくかもしれません。そのことも心配です。

夫や妻から叩かれる、大きな声を出す(「DV」といいます。)などの被害を受けている人は、外国人でも、日本の法律(DV防止法)を使って守ってもらうことができます。具体的には、裁判所に頼んで、次のような命令(保護命令)を夫に出してもらうことができます。命令に違反した人は、罰せられます。

  • あなたの住んでいるところや働いているところの近くへ行くことを禁止する
  • あなたの親やきょうだいなどの近くへ行くことを禁止する
  • あなたの子どもの近くへ行くことを禁止する
  • 住んでいるところから出るように命令する(2か月までの間)
  • あなたに会うことを求めたり、電話などをしたりすることを禁止する

2. いつまでも友達の家にいることはできません。アパートを借りて引っ越したいです。その準備をするために、一度家へ帰って、荷物を取りたいです。でも、夫が怖くて帰ることができません。どうすればいいですか。

夫に家から出て、家の近くに行かないよう、地方裁判所から命令してもらうことができます(「退去命令」といいます。)。
DVの被害にあった人が引っ越しの準備などで必要な場合に命令が出ます。期間は2か月までの間です。これは法律(DV防止法)で決まっている命令(保護命令)の一つです。
命令を受けた夫は、この(あいだ)に家へ帰ることはできません。あなたはこの(あいだ)に、荷物を取りに行って、引っ越しの準備などをしてください。
保護命令は何回も求めることができます。しかし、退去命令は、どうしても仕方がないときだけ認められます。命令を受けた人の生活への影響が大きいからです(DV防止法18条1項)。

3. 新しい住所を、夫に知られたくありません。どうすればいいですか。

あなたは、引っ越したあとの住民票を夫に渡さないよう、役所に求めることができます。
期間は、求めてから1年の間までです。必要があれば、1年がすぎる前に、期間をのばす申し込みをしてください。
しかし、夫以外の人が役所に申し込んで、あなたの住民票を手に入れて、あなたの新しい住所を夫に教えてしまうかもしれません。
そのため、住民票を新しい住所に変えるかどうか、役所や弁護士によく相談してください。

なお、外国人が引っ越した場合、14日以内に役所に新しい住所を教えるよう、法律で決まっています。
ただし、正しい理由があれば、問題にならないことがあるので、このことも役所や弁護士に相談してください。

4. あと8か月で在留資格がきれます。夫には、在留期限をのばすことに協力してもらうことはできません。どうすればいいですか。

今の在留資格がなくなる前に、在留期間をのばすか、在留資格を変えるよう申し込む必要があります。
夫の協力がない場合でも、「日本人の配偶者等」の在留期間をのばすことが認められるかもしれません。そのために、できるだけ早く、家庭裁判所で離婚の調停<=話し合うことで争いを終わらせるための手続き。調停委員という人が間に入って、話し合いを手伝います。>を始めることが必要です。裁判所でもらった「調停の受理(係属)証明書」という書類を入管へ持っていって、DVの被害を受けていることを言ってください。

また、在留期限がきれていなくても、6か月以上、夫婦としての生活をしないまま、日本に滞在していると、「入管法」(法律の正しい名前は「出入国管理及び難民認定法」)という法律によって、在留資格がなくなることがあります。ただし、DVの被害から逃げている間や、離婚の調停や裁判をしている間は、夫婦としての生活をしていないことについて、理由があるので、このことを入管に説明して分かってもらうことができれば、在留資格がなくなることはないでしょう。

しかし、離婚した後も、日本で生活を続けるためには、在留資格を変える必要があります。
あなたの場合、「定住者」という在留資格に変えることができるかもしれません。「離婚定住」日本人実子扶養定住(にほんじんじっしふようていじゅう)と呼ばれている、入管の定めた条件に合えば、日本で生活することが認められるかもしれません。DV被害者の場合は、認められやすいと言われています。
離婚した後も日本で生活したいときは「離婚定住」、あなたが日本人の子どもを育てているときは日本人実子扶養定住(にほんじんじっしふようていじゅう)に変えることを考えます。変更が認めてもらえるかは、例えば下のようなことを見て決めます。

離婚定住

  1. 日本で約3年以上、夫婦として生活していたこと
  2. 生活するために十分なお金や、仕事ができる力があること
  3. 普通の生活に困らないくらいの日本語を読み、書き、話すことができること
  4. 税金、年金、健康保険料などを正しく払っていること

日本人実子扶養定住(にほんじんじっしふようていじゅう)

  1. 生活するために十分なお金や、仕事ができる力があること
  2. 日本人との間に生まれた子を育てている人で、下の両方に当てはまる人
    a. 子が日本人で、その親権<=子どもを育てて、教育を受けさせ、財産を管理するために、親がもつ権利と義務> を持っていること
    b. その子を実際にある程度の期間、本当に育ててきたこと