やさしい日本語

「母が死にました。財産をどのように分けたらいいですか。」

困っている男性

先日、私の母が死にました。
母は外国人でしたが、10年前に日本の国籍を取りました。父は30年以上前に死にました。
相続する<=死んだ人の財産を引き継ぐこと>人は私と姉の二人です。
父が死んだあと、母は長い間、日本で一人で生活していました。5年くらい前から体が弱くなりました。
日本に住む私と私の妻が、ほとんど毎日、母の生活の世話をしてきました。

母は死ぬ前に、財産は全部私に与えると何回も言っていました。
遺言<=自分が死んだあと、自分の財産を誰に渡したいかなどを、死ぬ前に決めておくこと>も書いたと言っていました。実際に、母が自分で書いた遺言も見つかりました。
母は死ぬ前に、世話をしてくれたお礼だと言って、私と妻が住む家のリフォーム代<=修理に必要なお金>を出してくれました。残っている財産は、日本にある土地と建物のほかに、貯金が少しあるだけです。

私は、母の言うとおり、母の財産を全部もらいたいです。でも、姉は納得していません。

Q 質問

  1. 母が死んだあと、誰も開けていない封筒が見つかりました。母が書いた遺言が入っているようです。
    封筒を開けて、中を確認してもいいですか。
  2. 私は、母の遺言のとおり、母の財産を全部もらうことができますか。
  3. 母が死ぬ前、私が家のリフォーム代を出してもらったことは私がもらえる財産に関係しますか。
  4. 姉との話し合いがうまくいかなかった場合、どうなりますか。

A 答え

法テラスの職員

  1. 封筒を開けないでください。そのまま大事に保管し、すぐに家庭裁判所で、遺言書の状態や内容を記録してもらう手続(「検認」といいます。)を申し込んでください。申し込み方法や資料は、家庭裁判所や専門家に相談してください。
  2. 死んだ人の財産をどうやって分けるかは、遺言に書かれているとおりにするのが普通です。
    しかし、法律では、あなたの姉は、財産を残した人の子どもなので、遺言の内容にかかわらず、財産の一部が必ずもらえることになっています(「遺留分」といいます。)。そのため、あなたの母が、全部の財産をあなたに残すという遺言を書いた場合であっても、姉は、自分が必ずもらえることになっている分をあなたに払うように求めるかもしれません。
  3. 財産を分けるときには、母が死ぬ前に、あなたが母からリフォーム代をもらっている分、今回あなたがもらう財産は減ることになるかもしれません(「特別受益」といいます。)。
  4. 2人だけで話し合いがうまくいかなかった場合、姉があなたに対して、自分がもらえる分がほしいと裁判所に訴えるかもしれません。

説明

外国人の相続では、次のことが問題になります。

  • どの国の法律を使うか
  • 日本の裁判所で手続することが認められるか

どの国の法律を使うか

どのような場合に、どこの国の法律を使うかは、法律で決まっています。

あなたの今回の相続では、亡くなった母が日本人なので、日本の法律を使います。
相続に関しては、どこの国の法律を使うか、とても複雑なので、手続をする前に弁護士に相談してください。

日本の裁判所で手続することが認められるか

死んだ人の財産を分けること(「遺産分割」といいます。)については、被相続人(財産を残す人。ここでは母)が死んだときに日本に住んでいた場合、日本の裁判所(家庭裁判所)で手続ができます(家事事件手続法3条の11)。

 

1. 母が死んだあと、誰も開けていない封筒が見つかりました。母が書いた遺言が入っているようです。封筒を開けて、中を確認してもいいですか。

あなたは、母が書いた遺言が入った、誰も開けていない封筒を見つけました。

この封筒を開けないでください。
そのまま大事に保管し、すぐに家庭裁判所へ行って、検認<=家庭裁判所が遺言書の状態や内容を記録すること。遺言書の書き直しなどを防ぐことができます。手書きの遺言書を見つけた場合、必要となる手続です。>を申し込んでください。

家庭裁判所のイラスト遺言の手紙を持っていた人や、遺言の手紙を見つけた相続人<=死んだ人の財産を引き継ぐ人>は、遺言を書いた人が死んだことを知ったとき、すぐに裁判所へ行って、検認を求める必要があります(民法1004条1項)。公証役場で「公正証書遺言」という遺言を作った場合は、検認を求める必要はありません。
また、誰も開けていない遺言は、家庭裁判所で開けることと決まっています。このとき、相続人かその依頼を受けた弁護士が、その裁判所にいる必要があります。

2. 私は、母の遺言のとおり、母の財産を全部もらうことができますか。

遺言に、「あなたに全部の財産をあげる」と書かれている場合でも、他の相続人から、その人が法律で必ずもらえると決まっている分(遺留分)を払うように求められることがあります。

きょうだい以外の相続人、例えば死んだ人の夫か妻、子ども、父、母などには、法律で必ずもらえると決まっている分の遺産<=死んだ人が残した財産>をもらう権利があります。遺言の内容とは関係なく認められます。これを「遺留分」といいます。

遺留分の総額は、被相続人の財産の2分の1(1/2)です。
ただし、父や母、祖父や祖母など(「直系尊属」といいます。)だけが相続人の場合は、被相続人の財産の3分の1(1/3)が遺留分になります。

あなたの場合、相続人は被相続人(母)の子ども2人(あなたと姉)です。だから、遺留分の総額は、遺産の2分の1(1/2)になります。
一人当たりの遺留分は、法律で決まっている遺産の分け方で計算します。あなたの場合は、遺産の2分の1(1/2)の遺留分を、あなたと姉の二人でさらに2分の1(1/2)ずつ分けます。
だから、あなたと姉は、遺産の4分の1(1/4)ずつの遺留分を持っていることになります。

見つかった遺言書に、「あなたに全部の財産をあげる」という内容が書いてある場合でも、姉は、遺留分の金額を払うように、あなたに求めるかもしれません。

3. 母が死ぬ前、私が家のリフォーム代を出してもらったことは私がもらえる財産に関係しますか。

遺留分を計算する時は、次のように計算します。

(【1】+【2】-【3】)×遺留分の割合

【1】被相続人が死んだときに持っていた財産の合計
【2】被相続人が死ぬ前の1年間に誰かにあげた財産(相続人にあげた場合には被相続人が死ぬ前の10年間にあげた財産)の合計。また、遺留分をもらう人の権利を奪うことになると知っていて与えた財産の合計。
【3】借金などの金額の合計

 

あなたが母からもらったリフォーム代は、母が生きている間に分けてもらった財産です(「特別受益」といいます。)。
母が生きているうちにもらった財産は、遺留分の金額を決めるときに、計算に入れます。だから、あなたがリフォーム代をもらっていない場合にくらべて、あなたがもらう財産は減るかもしれません。

4. 姉との話し合いがうまくいかなかった場合、どうなりますか。

あなたと姉の話し合いがうまくいかなかった場合、遺留分がもらえない姉は家庭裁判所に調停<=話し合うことで争いを終わらせるための手続。調停委員という人が間に入って、話し合いを手伝います。>を起こして、あなたに遺留分を払うよう求めることができます。
調停をしても話し合いが終わらなかったら、裁判をして裁判官に決めてもらうこともできます。