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刑事弁護を通じて人権を守る弁護士の原点(3)

更新日:2018年6月28日

法テラス沖縄法律事務所 釜井 景介 弁護士(43期)

スタッフ弁護士として走る

私がスタッフ弁護士になろうと決めたことには、別の理由もあります。
法務省時代にスタッフ弁護士を含む法テラスの制度設計に関わってきた自分だからこそできることがあるのではないかと考えたことです。

総合法律支援法案の国会審議の当時、スタッフ弁護士の果たすべき役割・目的について、それほど具体的に決まっていたわけではありません。
一応言われていたのは、被疑者国選への対応です。国選弁護の対象が被疑者まで広がることになり、事務所経営を抱えた弁護士だけでは対応が難しいため、スタッフ弁護士が必要ではないかというものです。
もう1つは、民事法律扶助の事件処理の効率化です。同種の事件をたくさんやって専門化すれば効率化できる(一般の弁護士に対し費用を支払うより低コストで利用者への援助が可能になる。)ということです。
ただ、我が国で初めての制度であるスタッフ弁護士が実際にどのような役割を果たすべきかについては、設立準備をする法務省ではなく、法テラス自体が、事業を遂行していく中で、随時考えていくべきことだと私たち担当者の中では整理されていました。

その後、時の経過とともに、スタッフ弁護士の役割に対する認識も変わってきているようです。
スタッフ弁護士に求められることは、要するに、一般の弁護士がやっていないところで業務をブランド化することではないかと思います。
今まで手が届かなかったところを開拓していくという意味で、福祉分野との連携を目指す司法ソーシャルワークも1つの役割かもしれません。
弁護士が関わる領域を拡大することが利用者の利益につながっていきます。
私個人としては、スタッフ弁護士がその地域での刑事弁護の核になり、「法テラスの弁護士なら刑事事件は大丈夫」というようなブランドを作っていきたいと考えています。実際に沖縄でそれを実践していますし、今後とも続けていくつもりです。
 

司法制度改革の先を考える

法務省に異動する直前、司法制度改革審議会事務局専門調査委員(最高裁事務総局総務局から出向)として、裁判員制度、裁判官制度改革、ロースクール構想などに関わりました。
世界的に見ると、日本は市民の司法参加の仕組みで遅れていましたので、裁判員制度の導入というのはそれほど珍しいことではないんでしょうが、裁判員裁判の特徴である口頭主義と相反する書面主義や精密司法を究めた当時の刑事裁判の状況を知る者からすると、裁判員制度のような国民参加制度が導入されようとは想像も付きませんでした。

今、司法制度改革の結果として一番大きな問題は、法曹養成と法曹人口の問題です。
予想はしていましたが、弁護士が増えたことにより、司法試験に合格しても、弁護士として就職できないという状況になっています。
この問題は、弁護士(会)側の努力である程度解決できる面はあるかもしれません。
しかし、弁護士という法曹資格者がいなくても組織としての活動に特段不自由を感じていない企業や国・自治体の中に、弁護士資格者が活動の場を作るためには、視点の異なる別の施策が必要なのではないかと思います。
例えば公務員試験と司法試験の一元化など。
この問題は、地方単位会とスタッフ弁護士との関係やスタッフ弁護士の役割等の問題にも影響してくるので、早く出口を見つけてもらいたいものです。

法テラスは、設立から7年が経ちました。
本部から離れた沖縄から見ていると、最近は、利用者の立場に立ってサービスの質を上げる、サービスの対象を広げるという本来の組織の目的より、コンプライアンスの徹底など行政組織としての形を作ることに力点が置かれ過ぎているように見えます(誰がどうのというのではなく、全体の雰囲気)。
役所より役所らしくなっているようにも映ります。法テラスはなぜ独立行政法人という民間企業の組織形態を採用したのかを改めて想起する必要があるのではないでしょうか。
社会の変化に合わせて、常に利用者のニーズは変わっていきます。そのニーズに柔軟に機動的に対応できる機関を作ろうという想いで、法テラスの立ち上げに関与しました。
私が司法法制部で設立準備に関わったときから財務会計課長当時まで、「法テラスは国とは違う」ということが大前提でした。
財務省や会計検査院との関係では、何でも国のやり方に合わせる方が「説明が楽」です。
しかし、私たちは、彼らのために仕事をしているのではありません。
私が法務省や本部にいた当時より、法テラスを取り巻く状況は厳しいのかもしれません。
しかし、私の経験上、企画・施策の出来がよく、担当者の熱意があれば、相手が誰であろうが、必ず説得できます。
組織全体の運営に責任のない立場から勝手なことを言うようですが、設立されたときの理念や想い、司法アクセスの障害を解消するという出発点に立ち返って、自由な発想で進むべき方向を考えて欲しいものです。
 

釜井景介(かまい けいすけ)弁護士
1988年司法試験合格。裁判官10年(東京地方裁判所、那覇地方裁判所、最高裁刑事局・総務局など)、検事5年(法務省人権擁護局、司法法制部)の経験後、法テラス本部財務会計課長を勤め、2007年10月から、法テラス沖縄法律事務所のスタッフ弁護士として勤務。趣味は、走ることと競馬。

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