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理事長あいさつ
令和7年9月20日
日本司法支援センター(法テラス)の設立と主な業務
■日本司法支援センターは、司法制度改革の柱の一つとして、「総合法律支援法」に基づき平成18年4月に設立され、同年10月から業務を開始しました。
センターは、様々な困難や悩みを抱える方々に法の光を「照らす」ことによって問題解決の道へと導く暖かな日差しの注ぐ「テラス」のような場でありたいとの願いを込めて、通称「法テラス」と呼ばれることになりました。
法テラスは、離島や過疎の地域から大都会まで全国47都道府県に103の地方事務所・地域事務所等を設置し、コールセンターや本部事務所とともに、皆様と司法を結ぶ架け橋となって司法サービスが身近で利用しやすい社会が実現することを目指して活動を続けています。
■法テラスの主な業務は、(1)情報提供 (2)民事法律扶助 (3)国選弁護・国選付添関連 (4)司法過疎対策 (5)犯罪被害者支援の各業務と (6)関係機関・団体から委託を受けた法律援助業務などですが、この内、コールセンターと地方事務所が法制度や相談窓口の情報を紹介する情報提供件数は年間60万件を超え、また、民事法律扶助では、経済的に余裕のない方々等に対する無料の法律相談援助が年間約30万件、弁護士等の代理が必要な場合の費用を援助する代理援助は年間約10万件のご利用をそれぞれいただいています。
このように、法テラスは、経済的・社会的理由等により司法サービスの提供を受けることが容易でない多くの皆様の悩みや問題の解決のために利用されてきましたが、年々変化する社会の動きを反映して、提供するサービスの内容は大きく広がっています。
社会の期待に応え、時々の社会課題に向き合って
■法テラスは、情報提供・民事法律扶助・国選弁護等関連・司法過疎対策・犯罪被害者支援などの主要業務とともに、時々の社会が直面する諸課題に対応し幅広いニーズに応えるため、法改正や運用改善等を通じて多様な業務に取り組んできました。
とりわけ近年は、社会経済情勢の大きな変化に伴い、社会的な関心が高い多くの課題に取り組むために、法テラスの幅広い支援が求められるようになってきました。
(1)「東日本大震災法律援助」(平成24年)
東日本大震災の発災にあたっては、被災者を支援するための「法テラス震災特例法」に基づく法律相談援助・代理援助・書類作成援助を実施してきました(ただし、震災特例法は令和3年3月31日に期 限を迎えて失効したため、その後、同法に基づく震災法律援助の新たな申込の受付は終了しています。)。また、東北三県(岩手県・宮城県・福島県)には様々な支援活動の拠点となる被災地出張所を設置してきました。
(2)「被災者法律相談援助」(平成28年)
東日本大震災の経験を踏まえて、その後も相次ぐ地震・豪雨等による大規模災害の被災者を支援するために、大災害の発生から1年間、法律相談援助を実施してきました(平成28年熊本地震・平成30年西日本豪雨・令和元年東日本台風・令和2年7月豪雨・令和6年能登半島地震・令和6年奥能登豪雨)。
(3)「特定援助対象者法律相談援助」(平成30年)
認知能力が十分でないために自己の権利の実現が容易でない高齢者・障がい者等の支援のために、法律相談援助を実施しています。
(4)「DV等被害者法律相談援助」(平成30年)
また、DV・ストーカー・児童虐待の被害者の支援のための法律相談援助も実施しています。
(5)被疑者国選弁護制度の勾留事件全件への拡大(令和30年)
貧困等の理由で自ら弁護人を選任できない被疑者の国選弁護制度が勾留事件全件に拡大され、法テラスの国選弁護関連の業務も広がりました。
(6)「電話等相談援助」(令和2年・4年)
コロナ禍の下での困難に対応するため、対面によらずに相談を可能とする緊急時の電話等による法律相談援助を令和2年から開始しました。その後令和4年からは、平常時にも電話・オンラインを活用した「電話等相談援助」を実施しています。
(7)「外国人在留支援センター」(令和2年)
日本各地で暮らす外国人の増加に伴い政府が開設した「外国人在留支援センター」内に法テラス国際室を設置し、関係機関・団体と連携して在留外国人の支援に取り組んでいます。
(8)「霊感商法等対応ダイヤル」(令和4年)・「特定被害者法律援助」(令和6年)
旧統一教会に係る問題等に対する関係省庁の合同電話相談窓口の役割を引き継ぎ、「霊感商法等対応ダイヤル」を開設し(令和4年)、心理士・社会福祉士などの専門職と協力するとともに、全国統一教会被害対策弁護団と連携して被害者の支援・救済にあたってきました。
また、令和5年に成立した「特定不法行為等被害者特例法」に基づき、旧統一教会問題の被害者救済のため、法律相談援助や代理援助などの「特定被害者法律援助」を実施してきました(令和6年)。
(9)ひとり親家庭の支援の拡充を実施(令和6年)
ひとり親家庭のこどもの養育費の確保を支援するため、民事法律扶助の利用者の負担軽減を図るなど、利用しやすい制度とするための運用改善を実施しています。
(10)令和6年能登半島地震・令和6年奥能登豪雨の被災者支援のための「被災者法律相談援助」(令和6年1月・9月)
地震による被災者を支援するため被災者法律相談援助を令和6年12月末日まで実施し、その後、令和6年9月に発生した豪雨災害の被災者支援のため、令和7年9月19日までの1年間、移動相談車両「法テラス号」を活用するなどして奥能登の3市3町の住民に対する被災者法律相談援助を実施してきました。
(11)「犯罪被害者支援弁護士制度」 「離婚と共同親権」(令和8年)
令和6年春の法改正により、犯罪被害者支援弁護士制度(総合法律支援法の改正)や離婚後の共同親権を可能とする制度(民法の改正)が新たに導入されることになりました。
いずれの法改正も2年以内の施行が予定されており、法テラスは改正法の施行に伴う必要な体制整備や連携強化の準備に取り組んでいます。
自治体・福祉等の関係機関・団体などとの連携・協働を進める
■法テラスの設立から今日まで、内外の社会経済状況は大きく変化を続けてきました。
日本社会においても、著しい少子高齢化と雇用環境・地域社会・家族関係の変化、孤独・孤立や格差と生活困窮の問題の広がりなどが重要な課題となっており、社会生活上の困難を抱える幅広い層の人々への支援が様々な分野で取り組まれています。
人々が抱える法的問題は、借金などの金銭問題、夫婦・親子・相続等の家族関係、職場と労働の問題、住まいの問題、インターネットを含む生活上の取引を巡る諸問題、犯罪や各種の人権侵害など多岐にわたっており、人々の日々の暮らしや人生に関わる大きな悩みや障害になることもしばしばあります。
これらの問題の背景には、法律・福祉・医療・心理・教育・雇用など様々な領域に関わる複合的な問題が含まれており、その根本的な解決のためには関係機関等が協力した包括的な支援とともに、それを効果あるものとするための仕組みや体制の整備が必要です。
法テラスは、福祉機関や自治体等の関係機関・団体及び専門職など支援に関わる方々(支援者等)との連携・協働の輪を広げ、「司法ソーシャルワーク」「アウトリーチ」「福祉機関等のケース会議への参加」「ワンストップ相談会」などの実践を通じて、「生活困窮者の自立支援」や「成年後見制度の普及・利用」、さらには若者や女性が抱える問題に対する相談支援などを始めとして、様々な活動に取り組んできました。
このように、地域の支援者等と連携・協働する活動(地域連携)は、困難に直面し生活に困窮しながらも声をあげることが容易でない多くの人々に対する支援を通じて、高齢者・障がい者・こども・女性・若者・労働者・消費者・過疎地住民・外国人・自然災害の被災者・人権侵害や犯罪の被害者等を始めとする幅広い人々の権利擁護と権利救済を図るとともに、その家族を含む人々の生活の再建と社会への積極的な参加を後押しし、さらに進んで、地域の誰もが互いに協力しあってよりよい生活を送ることができる生きやすい社会の実現にも繋がるものです。
将来に向かって、法テラスの様々な支援は、こうした広い視野に立ち、より効果的な取組にも一層力を注いでいきたいと思います。
より良いサービスの提供のために~DX推進・業務の改善・「働きがいがある」「働きやすい」業務環境の整備充実~
■多様化する司法アクセス拡充のニーズに応え、より良いサービスを提供していくためには、法テラスの人的体制の充実・デジタル化の推進・財務基盤の確立などの業務基盤の整備充実を図ることが極めて重要になっています。
とりわけ、困難を抱える人々に寄り添い支える業務を担う「人」、すなわち法テラスで働く職員体制の充実は法テラスの業務の「かなめ」です。
司法アクセスサービスの提供は社会生活の維持に必要不可欠な公共サービスの一つとされていますが、年々広がる法テラスの業務は働く地域も年齢・経験も異なる多様な職員らによって担われており、職員の約7割を構成する女性が各地で活躍していることも法テラスの特徴の一つです。
法テラスの理念に共感し現場を担う職員一人ひとりの志と意欲・能力を活かし、やりがいを高め、成長を後押しし、働きやすい環境を整備して人材の確保・育成に努めることは、今日、司法アクセスサービスの充実のためにとりわけ大切なこととして取り組みたいと思います。
■また、法テラスは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を図り、令和10年度の第5世代システムの更改に向けて、情報システムを更新しつつ業務の在り方や組織運営の在り方の改善改革を進めるべく努力を重ねています。
デジタル化の推進を通じて業務プロセスを見直し、業務の簡素化・集約化を含む効果的・効率的な業務改善と利用者の利便性の向上を図るとともに、働く環境の整備を進めて働く者のエネルギーを生み出し、地域の人々と向き合い地域連携を構築する「人ならでは」の活動を一層活性化して法テラス事業の価値を新たに創出してまいります。また合わせて、データ活用と現場の活動実践を踏まえて施策の企画立案にも積極的に取り組んでまいりたいと思います。
そして、国民のためにより良いサービスを提供し、社会経済状況の変化に対応した法テラスの事業の充実と持続的な発展のためには、「人」「デジタル」「地域連携」などとともに、社会のニーズに応えるための事業の裏付けとなる安定した財政基盤の確立が喫緊の課題として不可欠となっています。そのためにも、法テラスは、社会に積極的に発信してその理解と共感を得ながら関係機関等と連携した取組を一層強化していきたいと思います。
法テラス設立20年目を迎え、司法アクセス拡充の時代へ
■今日、私たちは、内外ともに複雑困難な情勢の下で多くの課題に直面していますが、そのような時代にあっても、国連の全加盟国が賛同して採択されたSDGs17の共通目標にも掲げられた司法アクセスの拡充(目標16)を始めとする人権・環境・社会的公正などに関わる諸課題に取り組む世界の潮流は、紆余曲折はありつつも引き続き力強く着実なものがあります。
法テラスは、こうした時代の要請に応えて、国内外の様々な取組にも学びながら、契約弁護士・司法書士の皆様、そして多くの関係機関・団体の皆様との連携・協働を深め、職員・常勤弁護士(スタッフ弁護士)らの力を合わせて、司法アクセスサービスと業務・組織運営の充実を図るよう努力を重ねてまいります。
■法テラスは、多くの皆様に支えられて、令和7年度に設立以来20年目の事業年度を迎えています。
この節目の年に当たり、歴史を振り返り、各界の方々との交流を深めながら、ニーズ調査・利用者調査などの社会調査も踏まえて、将来の司法アクセス拡充のビジョンを展望する活動にも取り組みたいと思います。
この間、法テラスは、能登の被災者支援とこども支援のために、各界の皆様にクラウドファンディングへのご協力やご寄附のお願いをさせていただきました。趣旨をご理解いただき、多くの個人・企業・団体から温かな共感のお声と貴重な御芳志を賜りました。このことは、私どもにとって大きな励ましであり、勇気づけられることでありました。
改めて深く感謝を申し上げますとともに、そのご期待に応えるべく努力を続けてまいりたいと思います。
皆様におかれましては、今後とも法テラスの事業と活動にご理解をいただき、貴重なご意見を賜りまして、司法アクセス拡充の取組の発展のために、変わらぬご支援ご協力をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
令和7年9月
日本司法支援センター
理事長 丸島 俊介
丸島 俊介(まるしま しゅんすけ)理事長プロフィール
経歴
昭和51年 3月 東京大学法学部卒
昭和53年 4月 弁護士登録
平成 7 年 4月 日本弁護士連合会常務理事
平成11年 6月 司法制度改革審議会主任専門調査員
平成20年 4月 日本弁護士連合会事務総長
平成23年10月 原子力損害賠償支援機構理事
(平成26年8月 原子力損害賠償・廃炉等支援機構に改組)
平成24年 8月 法曹養成制度検討会議委員
平成29年10月 日本司法支援センター常務理事
令和 4 年 4月 日本司法支援センター理事長