

虐待や貧困に苦しむ子どもたちの
居場所を作りたい
法テラス阪神法律事務所 松浦真弓弁護士(67期)
※所属事務所は、インタビュー当時のものです。
中学生のときに、いじめる子たちの家庭環境を考えたことがきっかけに。
私が弁護士を志したのは、中学校での出来事がきっかけでした。同級生から無視されたり、ばい菌扱いされたり、「死ね」と毎日言われたり…段々と自分から言葉を発することが怖くなっていきました。そのような日々の中で、『だから、あなたも生きぬいて』という本を読んで、自分の思いや痛みを上手く言葉にできない人の力になりたいと、弁護士の仕事を意識するようになりました。次第に、いじめの対象が移り変わっていき、ちょっと引いた目で見たときに、いじめている側について考えるようになりました。なぜ他者に対して攻撃的になるのか、初めは分かりませんでしたが、徐々に、そうしないと自分が保っていられない状況があるのかもしれない、家庭に居場所がないのかな、家庭の環境に要因があるのかな、などと考えるようになりました。そうしたきっかけがあって、私は子どもとその家庭の力になりたいと漠然と考えるようになりました。その後、「子どもの力になりたいなら、児童福祉士もあるのでは?」と気付いたのですが(笑)、法律の分野からできることがあるはずと思い、法律を学び続けることにしました。
「子どもシェルター」、「自立援助ホーム」の立ち上げに尽力。
「子どもシェルター」と、「自立援助ホーム」の違いについて、簡単に説明させていただきます。「子どもシェルター」は、言わば子どもたちの緊急避難場所です。今本人が置かれている苦しい場所から一時的に避難して、衣食住が整っていて、スタッフさんが24時間常駐してくださっている場所で規則正しい生活をします。心と体をちょっと休めて、「じゃあ次、どうしようか」と考えてもらう場所です。避難場所なので、携帯電話は使えませんし、場所も秘匿です。「自立援助ホーム」は、1人暮らしをする一歩手前の場所です。一人暮らしをするのはまだちょっと不安、という子どもたちが、学校や職場に通いながら、スタッフさんの目のある中で生活し、働いている子であれば、一人暮らしができるだけのお金を貯めて退所します。そのため期間も1~2年と長く、場所も公にしています。私は、兵庫県での「子どもシェルター」と「自立援助ホーム」の立ち上げに、関わらせていただきました。いずれの施設も対象としているのは10代の女子です。なぜ女子なのかと言うと、男子は土木関係など、住み込みの仕事がある場合も多く、比較的選択肢を見つけやすいのですが、女子にはそうした仕事がほとんど無く、性風俗で大人に悪く利用されてしまうことが多いからです。せっかく虐待から逃げても、結局性風俗などで心も体もボロボロになってしまう。そのため、まずは女子を優先して、そうした施設を立ち上げました。
一人ひとりの子どもへの寄り添ったコミュニケーションの難しさ
子どもと向き合うときに常に考えているのが、本当にその子の気持ちや希望を引き出せているかな、自分の働きかけが押し付けになっていないかな、その子の選択の幅を狭めていないかな、ということです。子どもたちには一人ひとり特性があり、その子によってコミュニケーションの取り方は異なります。また、子どもの自立に向けての過程は本当にそれぞれで、自身がどのような特性・力を持っているのか、どのような使える資源があるのか、これが正解というものがありません。一人ひとりの子どもたちに寄り添った支援をしていくために、試行錯誤の毎日です。
現在、法テラスの業務の中で、子どもからの相談も無料相談という形で受けることができます。日々、現場で対応をしていると、さらに支援を広げていく必要も感じていますので、今後は、より一層子どもに寄り添った支援ができるような仕組みづくりにもチャレンジしていきたいと考えています。
私が所属している阪神法律事務所はDV事件の受任が比較的多いですが、スタッフ弁護士の赴任先では、それぞれの地域ごとに需要は異なります。そうした地域の需要に応え、自分なりに工夫をしながら活動していけることも、スタッフ弁護士の魅力のひとつだと感じています。