法テラス宮崎法律事務所 遠藤真吾弁護士

留学の経験を活かして、
司法ソーシャルワークに尽力し、
外国人支援にもチャレンジしたい

法テラス宮崎法律事務所 遠藤真吾弁護士(59期)

※所属事務所は、インタビュー当時のものです。

県庁職員→法テラス→一般の法律事務所→留学。そしてまた法テラスへ。

 私は大学卒業後、県庁の一般行政職員として3年間勤務しました。私は仕事を通じて人の役に立ちたいという思いがあり、公共性・公益性の高い仕事に興味があったため、公務員を選択しました。入庁後に配属されたのは、県税のオンラインシステムの維持管理を行う部署でした。そこでは企業のシステムエンジニアの方々が同じ室内に常駐していて、システムの変更・不具合がある場合には協働して解決するなど、担当業務は面白く、また、県税の適切な賦課徴収業務の維持に欠かせない重要なものでしたが、市民と直接関わる機会は全くありませんでした。そうした環境の中で、もっと直接的に市民の権利擁護に取り組める仕事がしたいという思いが強くなり、司法試験を受け弁護士になることを決意しました。最初の1年間は仕事を続けながら勉強していましたが、定期異動のタイミングで退職し、退職してから約3年後、3回目の試験で合格することができました。東京の一般の法律事務所での1年間の養成期間を終え、法テラスのスタッフ弁護士として、法テラス下田法律事務所に赴任(初代)。約3年4カ月の任期を務めた後、養成元の事務所に戻り、パートナー弁護士として事務所経営に携わりました。東京に戻ってからは、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会(東弁)に所属し、高齢者・障害者の権利擁護活動をライフワークの一つとしていましたが、その後、2016年にベルリンで行われた成年後見法世界会議に出席したことなどをきっかけに留学を志すようになり、日弁連の海外ロースクール推薦留学制度に応募して、2020年8月から2年弱、アメリカのイリノイ大学で留学生活を送りました。2022年7月に帰国後、同年11月に法テラスのスタッフ弁護士に復帰し、現在は法テラス宮崎法律事務所で勤務しています。思い返してみると、我ながら目まぐるしく環境の変わった20数年だったと思います。

 

留学後、私はなぜ法テラスに戻ったのか。

 留学後、一般の弁護士ではなく法テラスのスタッフ弁護士に復帰したのはいくつか理由があります。1つ目は、留学の経験を通じて、私が弁護士として取り組みたいことは、社会的に弱い立場にある市民、例えば、高齢者・障害者・生活困窮者・外国人など、自ら弁護士等にアクセスすることが困難な方の権利擁護活動だということを再認識したことです。一般の弁護士ですと、どうしても事務所の収支や経営を考えざるを得ず、司法ソーシャルワーク活動など、権利擁護の観点からは弁護士による法的支援が必要だと感じる事件でも、なかなか取り組みづらいということがあります。スタッフ弁護士は、そうしたことをあまり気にせず、集中して事件に取り組むことのできる稀有な環境であることを、それまでの約16年にわたる弁護士経験から下田時代を振り返ってあらためて実感したことが、スタッフ弁護士に復帰した1番の理由です。もう1つは非常に現実的な理由ですが、お金の問題がありました。留学を終えて一般の弁護士に戻っても、ある程度の収入が得られるようになるまで、かなりの時間を要します。子どもたちが大きくなって生活費や学費もかさむ年齢になっており、早期に安定した収入を得る必要がありました。その点、同期の判事・検事と同水準の給与が支給されるスタッフ弁護士は、私の年次を考慮すると、収入面でも魅力でした。加えて、スタッフ弁護士の場合は地方への転勤がありますが、子どもたちが1人で留守番や身の回りのことができる年齢になり、私が単身赴任で働くことが現実的に可能な状況になったということもあります。もともと、スタッフ弁護士の任期が満了して一般の弁護士に戻った主な理由が、生まれたばかりの子どもや障害のある父(現在は他界)など家族の問題だったのですが、今であれば、もし単身赴任になったとしても全国どこでも働くことができると考え、法テラスに戻りました。いつも家族を支えてくれる妻や義理の母には感謝の気持ちしかありません。

 

留学したことで、マイノリティの立場の大変さを実感。

 アメリカで留学生活を送ったことで、異なる価値観や考え方、文化・慣習、生活様式に日常的に触れることによって、やはり視野が広がり、ものの見方にも変化が生じた感覚があります。自分の信念や価値観にも改めて向き合い、何を自分が大切にしているのか再認識することもできました。また、異国の地で外国人として生活することの大変さについて、これまで分かっていたつもりではあったのですが、正に身をもって実感しました。留学前からも、高齢者や障害者、生活困窮者の支援に力を入れていましたが、帰国後、そうした弱い立場にあり、ご自身で弁護士にアクセスして法的支援を求めることが困難な方の手助けをしたい、という気持ちを新たにしました。日本では近年、外国人労働者が急激に増加しており、令和5年6月末の在留外国人数は322万3858人と過去最高を更新していますが、私が今赴任している宮崎でも、多くの外国人が生活しているのを目にします。それだけ日本にいる外国人が増えているということは、法的支援が必要な外国人も増えていることを意味しますが、欧米と異なり、「移民政策」もない日本では、外国人に対する法的支援体制はまだまだ十分ではない現状です。東京・四谷にある外国人在留支援センター(Fresc)内には、法テラスも関係機関の一つとして入居し、外国人の方々に日本の法制度や相談窓口に関する情報提供を無料で行っていますが、今後は留学の経験を活かし、司法ソーシャルワークに尽力する中で、こうした外国人支援やその体制づくりなどにもチャレンジしていきたいと考えています。