法テラス本部 水島俊彦弁護士

支援者側の能力不足を
本人のせいにしていませんか?

法テラス本部 水島俊彦弁護士(61期)

※所属事務所は、インタビュー当時のものです。

学生時代に届いた督促状が本当に怖かった。

 大学は法学部ではなく、私自身は他学部出身者です。弁護士になった経緯については、身の上話になってしまうのですが、私は幼い頃に父を病気で亡くし、母子家庭で育ちました。その母も大学1年生のときに病気で亡くなってしまったのです。当時、学生寮に住んでいたのですが、母の死後、両親が残した借金の督促状が、私宛てに届くようになりました。赤色の用紙に大きく書かれた文字や金額を見たときには本当に怖かったですね。どうしたらいいのか途方にくれました。そのとき周囲の方に相談すると、まずは行政書士を紹介してくれました。行政書士に相談したところ、これは自分の範疇ではないと、司法書士を紹介してくれ、その司法書士の方から弁護士に何とかたどり着き、解決してもらいました。今思えば、弁護士にとっては難しい案件ではなかったのかもしれませんが、当時は単純に「弁護士さんってすごいなあ」と感じました。同時に、母はそれまで私を育てるのに相当な苦労があったのだと思いますが、法的な知識や弁護士に相談する機会などが十分に無かったのだろうと感じました。そこで、法的サービスにたどり着くことが難しい方のサポートができる仕事がしたいと、弁護士を志すようになり、大学卒業後、法科大学院に入りました。その大学院での日々は、文字どおり「山籠もり」生活でした。しかも、ほとんど大学とアパートの往復だけでしたので、その頃の話をすると「修行僧みたいだね」などとよく言われます(笑)。

 

私たちは本人の意思を本当にくみ取れているのか。

 私は高齢者・障害者の意思決定支援に強い関心があります。弁護士が高齢者・障害者支援に携わる場合には、地域の行政、福祉関係者をはじめ、さまざまな方と協力し、チームとして本人を支えることが必要です。しかしながら、支援者側には、弁護士も含めて、「自分が考える解決策が唯一の正解だ。」と思いこんでいる人もいます。それぞれの立場からすれば正しいことを言っているようでも、果たしてその解決策やその先の本人の生活は、本当に本人が望んでいるものと合致しているのか、と自問自答しつつ、ときには、勇気を持ってチームに対し疑問を投げかけてみることも大切です。 

加えて、本人に社会的な障壁を意味する「障害」があると、お互いに意思の疎通が図りにくいこともあります。そのときに、本人の真意を確認したり、本人自身の意思決定のタイミングを待ったりすることができずに、周りの支援者がよかれと思って全部お膳立てしてしまう、場合によっては、法定代理権のある成年後見人等が、本人の意思すら十分に確認せずに決めてしまうといった実態もあります。本人とのコミュケーションが十分に取れないことについて、自分たちの能力不足ではなく本人の能力不足の問題であると捉え、自分たちのほうが適切な判断ができるとの支援者側の思い込みがその背景にあるのかもしれません。

私自身は、コミュケーションのニーズの高い方と面談する際には、自分の能力を補完するためにさまざまな意思決定支援ツールを活用しています。相手によってどんなツールが合っているかは一人ひとり違いますので、話した言葉を文字化するアプリ、ホワイトボード(シート)、自分の好きなことや嫌いなこと、大切な価値観をカードで表現する「トーキングマット」を使う場合もあります。この「トーキングマット」は、もともとスコットランドで開発されたツールで、当初、カードの文字は英語でしたが、日本でも多くの人に関心を持っていただけるよう、クラウドファンディングを立ち上げ、日本語版のカードを作るための開発にも取り組んできました。さまざまなツールを活用しながら、本人が本当はどうしたいと考えているのか、どのように生きていきたいのか、を一緒に考えられるようなチームを作り、弁護士もその役割に応じて本人をそっと下支えできる存在になれれば、と考えています。

 

法テラスには自分がやりたいことを発見し、実現できる環境がある。

 

 法テラスのスタッフ弁護士として活動するメリットはいくつかあるのですが、私が一番感じているのは、法テラスの日々の業務それ自体が社会に存在する様々な制度・実務上の課題を発見するための契機となっており、かつ、法テラスには、このような社会課題の解消に取り組もうとするスタッフ弁護士を後押しする環境がある、ということです。私自身、スタッフ弁護士2年目から新潟県佐渡市に赴任しましたが、若手のうちから会社の破産管財人などの経験ができましたし、成年後見人等として福祉関係者や地域の人々と一緒にチーム支援を行うことを通じて、その重要性とともに意思決定支援における課題に気付きました。これらの経験が自分自身のキャリアを考えることにもつながり、日弁連及び法テラスの留学制度を活用してイギリスの大学の客員研究員として活動し、帰国後は国の成年後見制度利用促進専門家会議の委員を務めたり、大学での研究員活動及び教員活動に従事したりしています。

こうした活動も含めて、法テラスは一人ひとりがやりたいことを大切にし、応援してくれる職場だと感じています。多様な経験ができるからこそ、自分を見つめ直す機会を得ることができ、自分が生涯を通じて取り組んでみたいと思えるテーマを見付けられる。そして、職場がその取組みを後押ししてくれる。それがスタッフ弁護士になることの魅力だと思います。