法テラス熊本法律事務所 田中秀基弁護士

被災地支援を続けたい

法テラス熊本法律事務所 田中秀基弁護士(63期)

※所属事務所は、インタビュー当時のものです。

「こんなにぶ厚い書面が書けるよ。」先輩のその言葉がきっかけに。

 私がスタッフ弁護士になろうと思ったのは、司法修習生のときに出会った先輩弁護士の一言がきっかけです。それは「(スタッフ弁護士になったら)こんなにぶ厚い書面が書けるよ。」という言葉。それを非常に誇らし気におっしゃったんです。もちろん私は書面は短いほうがいいと思っていますし、裁判所だって短い方がウエルカムなんですけど(笑)。その言葉を聞いたときに、一件一件の事案に時間をかけて、丁寧に取り組むことができる職場なんだなと感じました。私は限られた時間の中で効率よくテキパキやるというのがあまり得意な方ではないので、そうした環境は自分に合っているのではないかと思い、スタッフ弁護士になろうと思いました。実際に入ってみて、自分に合った職場だったなと思っています。

 

被災地支援に弁護士が関わり続ける理由

 私は2020年の熊本豪雨の際に、被災地での法的支援に携わりました。そこで感じたのが被災者が抱える問題は、時間と共に刻々と変化していくということ。被災直後はたとえば災害に関する保険、支援制度などの相談が多いのですが、仮設住宅に入り、いざ自宅を再建しようという段になると、今度は不動産や遺産相続に関する相談が多くなります。たとえば土地が先代の名義のままになっており、いざ家を再建しようと思ったら遺産分割ができていなかった、という問題が浮上したりします。時間が経過するにつれ、夫婦関係の相談も多くなります。災害が起こると夫婦間でこれまでにかかったことが無かったような負荷がかかり、関係がぎくしゃくして離婚問題に発展する場合があります。大規模自然災害の後には、被災前から抱えていた問題がこれをきっかけに噴出することが多く、法的なトラブルを抱える方が多くなります。そうしたところに我々のような弁護士が支援に入ることは大切だと実感しました。もちろん支援制度にも限界がありますし、相談者が満足できるような回答ができない場合もあり、「結局自分は救われないのか」と不満をぶつけられることもあります。ですが、そうした不安や不満に耳を傾けることも我々の大事な役割ではないかと感じました。

 熊本豪雨では悪質な建設業者が跋扈(ばっこ)し、建築被害を広げていました。工事がずさんだったり、代金を払っているのに工事が完成しなかったり、工事にすら着手しなかったり。そして、その多くは、業者が仮設住宅を訪問販売することで被害にあっているのです。悪質業者からみれば、仮設住宅は潜在的な顧客がおり、かつ、被災者の方々は自宅の再建を急ぎたい気持ちがあり、ターゲットにされやすいのです。我々はこの問題を取り上げ、行政とも話し合いを進めてきて、今後の被害の予防に向けて、一定の成果も出ています。ただ、まだ十分ではなく、仮設住宅での営業活動に規制を及ぼす等、被害予防の枠組みが必要です。これからも様々な機会に発信を続けていきたいと思います。

 

ろう者の方の支援をしたときにいただいた、忘れられない手紙

 これまでスタッフ弁護士として活動をしてきて、忘れられない出来事があります。以前ろう者の方の支援をしたことがありました。案件自体はさほど難しいものではなかったのですが、相談者の方がろう者だったため、本人の希望を正確に把握するためにかなり時間がかかりました。何度も時間をとって面会を重ね、解決することができたのですが、自分としてはいつもどおりの活動をしただけという感じであまり印象に残っていなかったんです。しかし、後日、突然、その方からお礼状をいただきました。それ自体驚きだったのですが、その手紙の結びに、僕と出会ったことについて、『神様の恵みに感謝します。』とあったんです。その言葉を読んで、その方がこれまで歩んでこられた過酷で、生きづらかった人生を垣間見たような気持になりました。僭越ながら、このような手助けすら他人から受けたことがなかったのであろうと。こうした境遇にある方が世の中には確実にいらっしゃり、そうした方に時間をかけて丁寧に粘り強く対応する活動は、スタッフ弁護士だからこそできたのではないかと改めて感じた出来事でした。法的な支援を必要としている人に、必要なときに必要な支援ができる、それこそがスタッフ弁護士の良いところだと思います。