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57号 主役は自分自身 変わる!成年後見制度

更新日:2023年9月22日

あなたは、自身や家族が、何らかの原因で認知機能などが低下し、一人で決めることに不安が生じるような場面を想像したことはありますか? 成年後見制度を含めたさまざまな支援のあり方について、いま、本人の視点を踏まえた見直しが行われています。

成年後見制度は他人事じゃない!?

どういう制度なの?

あなたは成年後見制度について、どんなイメージを持っていますか。高齢者や障がい者のお金の管理をすること?生活全般のお手伝いをすること? ややこしい契約などを他の人が代わりにすること?
平成12年に制度ができてから20年以上経っていますが、成年後見制度という言葉は知っていても、その仕組みや具体的な内容はよくわからないと感じている人はまだまだ多いのではないでしょうか。
成年後見制度は、知的障がい・精神障がい・認知症などによって一人で決めることに不安や心配のある人を法的に保護・支援するための制度です。その人らしい暮らしや財産を守るため、成年後見人等(以下、後見人)がさまざまな支援を行います。
 

どんなときに利用するの?

次のような目的で利用されています。

  • 預貯金などの管理・解約
  • 身上保護(生活・療養看護に関する事務)
  • 介護保険契約
  • 不動産の処分
  • 相続手続
  • 保険金受け取り

超高齢社会の日本では、身寄りがなく、周囲にも頼れずに、生活が立ち行かなくなる高齢者が増えるのではないかと予想されます。また、さまざまな障がいにより、自分だけでは生活ができなくなってしまうことも考えられます。そうした人を支える成年後見制度は、誰にとっても他人事ではないのです。
 

後見人だけでは支援は不十分?

後見人にできること・できないこと

生活のさまざまな場面を支援する後見人ですが、何でもできるわけではありません。後見人の仕事として誤解されがちなのは「生活全般のお手伝いをする」というもの。制度ができた当初は高齢者・障がい者の親族が後見人を務めるケースが多く、日々の生活のサポートまで担っていました。しかしそれは親族としてのサポートであって、後見人の役割とは異なります。
手続・契約や財産に関することは後見人が支援し、介護や家事のお手伝いといった毎日の生活はそれ以外の人が支援する、と区別すると分かりやすいでしょう。
 

「できないこと」は誰が支援する?

制度が始まった当初の後見人の内訳を見ると、本人の子、兄弟姉妹、配偶者を含む親族の割合が全体の90%以上で、多くは親族によって担われてきました。しかし令和4年に選任された後見人を見ると、親族の割合はわずか19・1%。代わりに司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職が選任される例が多くなっています。
前述のとおり、後見人にできることは限られています。それ以外の部分をサポートできる親族が身近にいない場合は、後見人以外の誰かが、高齢者・障がい者などの日々の暮らしをサポートできるようにしないといけません。
詳しくは厚生労働省外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます。「成年後見はやわかり」(外部サイト)もチェック!
 

後見人が支援できることの例

※認知症や障がいの程度によって異なります。

  • 福祉サービス・介護の手続や契約
  • 保険料・税金の支払いや預貯金の管理
  • 誤って購入した商品の契約の取消し
  • 定期的な訪問や状況の確認
  • 入院や施設への入所の手続
  • 書類の確認や施設などへの改善の申入れ

後見人の支援に含まれないことの例

  • 料理や掃除などの家事手伝い
  • 日用品の買い物代行
  • 手術を受けるか否かの決定
  • 介護

 

制度を支える担い手が減っている!

後見人を務める専門職のうち、最も多いのは司法書士で、次いで弁護士、社会福祉士です。しかしこうした専門職は地域によっては数が少なく、一部の地域で調査を実施したところ、担い手が不足しているという声が多く挙がりました※。
そこで重要なのが、市民後見人の存在です。専門職ではありませんが、高齢者・障がい者と同じ地域に住む人が後見人に就くことで、身近に寄り添った支援ができると期待されています。
市民後見人になるには、まず自治体などが開催する養成講座を受講して必要な知識・技術を身につけ、支援員として活動し経験を積みます。後見人に選任された後も、自治体などに定期的に報告や相談ができ、スムーズに活動するためのサポートを受けられます。
 
※成年後見制度利用促進体制整備委員会「地域における成年後見制度利用促進に向けた体制整備のための手引き」、青森県弁護士会「青森県内における成年後見事件の概況調査結果」
 

「その人らしさ」の実現へ、意思決定支援チーム

そこでいま重視されているのが、意思決定支援チームの取組みです。意思決定支援というと物々しく感じるかもしれませんが、簡単に言えば「その人らしく暮らせるようにお手伝いをすること」です。
自分の意思や権利を主張することが難しい人にとっては、「その人らしく暮らす」ことは決して当たり前ではないのが現状です。成年後見制度でも、高齢者・障がい者の意思が尊重されない例があることが課題となっています。それは支援できる範囲に限りがあるためでもあり、後見人一人ではすみずみまで目を行き届かせるのが難しいためでもあるでしょう。
意思決定支援チームでは、親族や地域の人々、保健・福祉・医療の関係者などが互いに連携して、高齢者・障がい者の支援にあたります。たとえば病気にかかったとして、治療については医師や看護師がプロですが、入院や手術についてどう思っているかは、日頃接する機会の多い親族や介護・福祉スタッフのほうが詳しいでしょう。家族だけでなく、友人や近隣住民の方との交流も大事な支援のひとつです。互いに情報を出して話し合うことで、本人の希望や価値観に根ざした、本人による意思決定ができるように取り組むことが期待されています。
 

これからの支援は「地域ぐるみ」で

チームとしての活動は「意思決定支援」だけではありません。虐待からの保護や、詐欺・押し売りなどの不当な取引から本人を守るための支援も重要となっています。こうした「権利侵害からの回復」と、「意思決定支援」をまとめて「権利擁護支援」と呼びます。
地域で暮らす本人を支える支援チームのコーディネーターとなるのは、自治体・権利擁護センター・地域包括支援センター・社会福祉協議会などで運営される「中核機関」と呼ばれる組織です。現在は国の基本計画のもと、中核機関が旗振り役となって、地域ぐるみで高齢者・障がい者を支えるネットワークづくりを進めています。
後見人も、支援チームの一員です。後見人だけで支援を完結しようとするのではなく、本人を含めた地域の支え手の皆さんとチームで協働していくことで、本人の意思を尊重した支援の実現を目指す取組みが行われています。
 

耳を傾けてみよう 現場から見る成年後見制度

支援に携わる3名にそれぞれの立場から、現状と課題、支援チームの重要性について伺いました。
 

〈中核機関〉大切なのは「無理」と決めつけず本人のために何ができるか、皆で考えること

特定非営利活動法人 尾張東部権利擁護支援センター センター長 住田敦子さん

一口に支援と言っても、ケアマネジャーや相談支援専門員など立場によって考え方が違い、どうしても本人より自分たちの困りごとに目を向けがちです。しかし支援とは周囲の人々の安心のためではなく、本人の希望を叶えるためのもの。丁寧にヒアリングして、何ができるかをチームの皆で考えています。
たとえば特別養護老人ホームの入所者で、家に帰りたいとおっしゃる方がいました。介護サービスの立場だと、在宅が難しくなって入所されたのですから、帰宅は無理と判断するのが当然のこと。しかしチームで向き合えば、別の立場から「この課題をクリアしたら帰れるのでは?」と前向きな意見が出ることがあります。この方の場合は、家族にも協力を仰ぎ、希望どおり家に帰ることができました。
すべての希望を叶えることができなくても、大切なのは無理と決めつけず、本人の声に耳を傾けることです。後見人は本人と長い付き合いになることが多く、特に市民後見人は「喫茶店でモーニングを食べたい。」「夏祭りに行きたい。」などささやかな希望にも真摯に向き合い、手厚い対応をしてくださっています。後見人は他の支援者と共に本人の意思を汲み取り、チーム支援に取り組んでいただきたいと思います。
 

〈有識者/成年後見人〉困っている人と共に歩む支援の実現を

同志社大学社会学部 教授 永田 祐さん

今はいよいよ生活が立ち行かなくなってから制度の申立てをする場合が多く、後見人には「本人の代わりに決めてくれる人」という役割が求められているように思います。しかしその段階までいくと、意思決定支援より、権利侵害からの回復が優先されているのが実情です。
だからこそ「困っている人を真ん中におく」、つまり本人もチームの一員とした権利擁護支援チームの形成が、今後ますます重視されます。成年後見制度はあくまで支援のひとつの手段ですから、本当に制度利用が必要かというところからチームでしっかり検討し、本人の意思に沿った支援を考える必要があるでしょう。
 

〈障がい者支援団体〉当事者を含めた「誰も」が本当に暮らしやすい社会に

特定非営利活動法人 ユートピア若宮 理事長 木本光宣さん

これまでの成年後見制度は主に本人の財産トラブルを解決する形で使われることが多く、地域社会の一人である支援者が望ましいと思う結果の実現が重視されてきました。障害者権利条約は、「私たちのことを私たち抜きで決めないで。」という精神が前提となって作られました。
条約を批准した日本でも、どんなふうにお金を使うかだけでなく、誰もが、どこに住むか、誰と生活するか、といった当たり前のことを、本人自身で決めていけることが権利として保障される必要があります。つまり、本人に関わる人々は、本人自身の意思や価値観を踏まえた意思決定が十分に確保できるよう動く役割があり、特に障がい者団体も含めたチームづくりが必要です。このような活動を理解できる地域社会の人々を増やしていくためにも、さまざまな価値観を認めていけるインクルーシブ教育の実現が大前提でしょう。

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